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内容目次 |
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● 目で見てわかる遺伝病
−眼科編 2 |
シリーズ企画 |
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巻頭言:『ゲノム編集と倫理』特集にあたって
(吉田雅幸) |
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1. |
ゲノム編集の現状と課題
(山本 卓) |
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CRISPR-Cas9を用いたゲノム編集は,医学研究および創薬や遺伝子治療に不可欠な技術となってきた。疾患モデル作製では,単に遺伝子を破壊した培養細胞や動物ではなく,疾患変異を正確に再現することも可能となっている。がんのモデル作製やがん関連遺伝子のスクリーニング法の確立など技術の進展が加速している。さらにゲノム編集を利用した生体内(in vivo )と生体外(ex vivo )での遺伝子治療が,海外を中心に臨床試験として進められている。一方,CRISPR-Cas9での予期せぬゲノム再編の可能性について報告されており,その利用には注意も必要であることが示されている。
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2. |
ゲノム編集における技術革新
(千葉朋希・淺原弘嗣) |
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2010年代に入り,TALENやCRISPR/Cas9の登場によりゲノム編集はより高精度に,より簡便な手法となり,加速度的に広まりを見せた。ゲノム編集によりあらゆる生物において塩基の欠損や挿入など自在にゲノムDNA配列を書き換えることが可能となった。ゲノム編集技術は"ゲノム編集"の枠にとどまらずエピゲノム編集,base editing,人工転写因子,クロマチン解析などへの応用が広がりをみせている。近年ではRNAを標的とした新たなツールも発見され,DNAのみならずRNAもその対象となりつつある。本稿ではゲノム編集技術の近年における進化とその応用について紹介する。
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3. |
ヒト生殖細胞系列におけるゲノム編集
(中村茜里・阿久津英憲) |
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ゲノム編集技術が発展する中,ヒト受精卵に対するゲノム編集研究も散見されるようになってきた。1細胞レベルの解析技術の進展などにより,ヒトの着床前期胚発生でも分子レベルの知見が深まり分子の機能性解析のためゲノム編集技術の応用が期待される。しかし,受精卵を含めた生殖細胞系列への遺伝子改変技術の適応は,個体すべての細胞へ波及し,さらに生殖細胞への遺伝子改変を通して世代を超えていく。ここでは,ヒト生殖細胞系列の科学的側面の理解を深め,ゲノム編集技術を適応することの可能性と課題を検討する。
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4. |
ゲノム編集の臨床応用
(金田安史) |
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2012年以来,欧米では次々と遺伝子治療製品が承認され,特に遺伝性疾患では究極の治療法になりつつある。いずれの遺伝子治療製品も治療遺伝子を細胞に導入し,その発現によって治療を行うもので,遺伝子自体を操作して治療する方法ではない。しかしゲノム編集技術の導入によって,遺伝子自体を改変して変異部位の修正や遺伝子自体の破壊によって治療応用が可能になった。ゲノム編集技術によって,遺伝子治療の対象疾患は確実に拡大し成功例も増加するであろう。一方,ゲノム編集技術の特許の状況が,今後の汎用性のある展開を阻む懸念も生じている。
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5. |
ゲノム編集と生殖医療−「ヒト受精胚に遺伝情報改変技術等を用いる研究に関する倫理指針(案)」策定までの経緯と概要
(神里彩子) |
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ヒト受精胚を用いたゲノム編集研究は,生殖医療の治療成績の向上にとって有益な研究と考えられる。しかし他方で,基礎研究および臨床応用それぞれに倫理的課題も伴うことから一定のルールが必要となる。文部科学省および厚生労働省は,生殖補助医療の向上に資する基礎的研究を対象にした「ヒト受精胚に遺伝情報改変技術等を用いる研究に関する倫理指針(案)」を策定した。本稿では,この指針案策定までの経緯,指針案の位置づけやポイントを紹介する。
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6. |
ゲノム編集と世論
(千葉紀和) |
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ゲノム編集は強力な技術だ。もたらす光が強ければ影もまた濃い。生活に身近な医療や食品などで影響が予期されるだけに,社会全体でのルール作りが望ましい。だが,人々の間には科学者の姿勢や一人歩きする技術への不安があり,研究者の一部には規制を嫌う態度が垣間見える。折しも政府は経済成長への期待感から,ゲノム編集作物の環境影響や安全性に関する法的取り扱いを一気にまとめる方針を打ち出した。拙速な決定は技術自体への負のイメージを残しかねない。世論の成熟に向け,メディアは本質的論点を多様な形で伝える工夫が求められる。
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7. |
ゲノム編集治療の倫理的課題
(石井哲也) |
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ここ数年,遺伝子組換え技術を利用した遺伝子治療が欧米で相次いで承認されている。ゲノム編集技術の登場で遺伝子改変の自在性は格段に向上し,今後,遺伝子操作に立脚した治療法は急速に発展するであろう。しかし,過去の遺伝子治療開発で起きた重大な副作用は,医療倫理四原則の無危害原則の重要性を強調した。学んだ教訓を活かしつつ,ゲノム編集治療試験の潜在的リスクを捉え,どのように評価・管理するか備えが急務である。
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グアニン四重鎖と遺伝性神経疾患
(塩田倫史) |
近年,非B型DNAおよびRNA構造の一つである「グアニン四重鎖」が細胞内に存在することが報告され,神経疾患の原因となる可能性が示唆されてきている。本稿では,グアニン四重鎖と遺伝性神経疾患との関与について紹介する。私たちは,グアニン四重鎖異常による遺伝性疾患「ATR-X症候群」における知的障がいの分子機構について疾患モデルマウスを用いて解析し,認知機能障がいの改善に有効である薬剤を見出した。グアニン四重鎖はその他様々な難治性神経疾患の病態においても注目されており,難病の新しい創薬標的の可能性に寄与することが期待できる。
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人工遺伝子スイッチを創るケミカルバイオロジー研究
(杉山 弘) |
塩基配列選択的にDNAに結合するピロールイミダゾールポリアミド(PIP)に様々な機能分子を結合させることによって,特定遺伝子の発現を選択的にオフやオンにすることが可能になってきた。これらの人工遺伝子スイッチと呼べる機能分子は,がんはもとより,遺伝子の発現が異常となっている様々な疾患に対しての新しい治療法につながる可能性がある。ここでは人工遺伝子スイッチを創るケミカルバイオロジー研究についての最近の進歩を概説する。
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● Learning①
〈遺伝性疾患(遺伝病)を学ぶ〉 |
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パーキンソン病の分子遺伝学
(戸田達史) |
連鎖解析などからメンデル遺伝性パーキンソン病(PD)原因遺伝子(α-シヌクレイン,パーキン,LRRK2遺伝子など)が明らかにされ,ミトコンドリア障害,酸化ストレス障害の病態への関与に加え,ユビキチン・プロテアソーム系の機能低下,つまりタンパク分解異常からドパミン細胞死に至る経路の重要性が示された。次世代シークエンサーによるエクソーム解析が展開されている。患者の95%を占める孤発性PDは多因子遺伝性疾患である。ゲノムワイド関連解析(GWAS)により,PD発症に関わる二つの新しい遺伝子座PARK16,BST1,常染色体優性遺伝性PDの原因遺伝子SNCA,LRRK2 が同定された。国際共同研究によるGWASメタ解析が行われ,より多くの感受性遺伝子が同定されている。ゴーシェ病変異も,頻度は低いが発症への寄与が大きい
rare variant として重要である。
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● Learning②
〈難治性疾患(難病)を学ぶ〉 |
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大理石骨病
(鬼頭浩史) |
大理石骨病は破骨細胞の機能不全による骨吸収障害により,びまん性の骨硬化を呈する遺伝的異質性の高い疾患群である。骨髄機能不全を引き起こし予後不良のものから,レントゲン検査によって偶然発見されるものまで表現型は多様である。びまん性の骨硬化,管状骨のモデリング異常などのX線所見が診断の鍵となる。重症型では造血幹細胞移植などが試みられているが,確立された治療法はない。骨は硬いが脆いため骨折しやすいうえに,骨代謝が低下して骨癒合は遷延化する。さらに,手術による固定材の刺入が極めて困難なため,本症の骨折治療はしばしば難渋する。
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単一遺伝子疾患の遺伝学的検査結果を読み解く
(渡辺基子・大橋博文) |
遺伝子関連検査技術の発展に伴い,医療者が遺伝学的検査の結果を目にする機会は増えている。遺伝学的検査には,単一の遺伝子を対象とした検査から網羅的なゲノム解析まで様々な種類があり,検査方法によって結果の情報量や複雑さは異なる。しかしながら,単一遺伝子疾患の遺伝学的検査の目的は疾患の原因を同定することであり,結果として報告されるのは,遺伝子の変化(バリアント)とそれが疾患の原因となるか(バリアントの解釈)である。本稿では,遺伝学的検査の報告書例に基づいて,バリアントの表記とその解釈について解説する。
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● Lecture
〈臨床遺伝学・人類遺伝学誌上講義〉 |
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遺伝カウンセリング
(鈴森伸宏) |
遺伝カウンセリングとは,遺伝学的情報を中心として動的に繰り広げられる心理教育的プロセスである。実際の遺伝カウンセリングでは,主に,①生殖・周産期医療,②小児期,③がんゲノム,家族性・遺伝性腫瘍の3つがある。遺伝カウンセリング外来では,クライエントなどから情報収集して遺伝医学的な診断と評価をし,家系図を作成,遺伝的リスクを推定し,遺伝学的検査・出生前診断・保因者診断・発症前診断などを開始する方法があるか,希望するときの検査のメリット・デメリットについて説明する。クライエントの理解度・背景などに配慮しながら遺伝カウンセリングして,自律的意思決定支援をするという順序となる。
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全ゲノム関連解析研究(GWAS)の原理と考え方
(吉浦孝一郎) |
全ゲノム関連解析研究(GWAS)は,疾患発症・発症抑制に関連したバリアントが祖先(ancestor)に由来するのであれば,非常に高感度に関連SNPを探し出すことができるマッピング法である。具体的には,横断研究である患者対照試験を実施する。現在では,日本人の全ゲノムシーケンス解析をもとに,連鎖不平衡にないSNPも多く含まれるようになり,imputation
も含めると極めて精密に関連を検出できる。ただし今後は,全ゲノムシーケンス解析費用の低下にともない,多因子疾患においても,全ゲノムシーケンス解析後の関連解析,多遺伝座の相加的効果も加味した関連解析など大きく変化していくことが予想される。
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マイクロアレイ染色体検査の実際
(山本俊至・山本圭子) |
マイクロアレイ染色体検査は,本邦においては保険制度の違いから一般臨床現場に普及しているとは言い難い状況であるが,欧米においては染色体Gバンド法に置き換わっており,発達の遅れや多発奇形などで何らかの染色体異常が疑われる場合には第一選択の検査法となっている。ただし,この方法ではゲノムのコピー数変化が明らかになるだけであり,それらが結果としてどのような染色体構造を呈しているかについては,さらにFISH法による確認などが必要となる。病的意義を確認するためには両親検索が必要となるケースもある。このような特徴を理解したうえで,実際に応用することが望ましい。
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サンガーシークエンス
(木下 晃)
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サンガーシークエンス法はDNAポリメラーゼの伸長反応とジデオキシヌクレオシド三リン酸の取り込みによる反応停止を利用したDNAの塩基配列の決定法であり,研究や臨床検査の現場で日常的に行われている技術である。その発表からわずか30年であるが,放射性同位体から蛍光色素へ,ガラス板からキャピラリーを用いた電気泳動へと自動化されていき,ついにはヒトゲノムの解明を達成した。本稿ではサンガーシークエンス法の基本的な原理を説明し,続いて実際に本研究室で行っている効率化・低コスト化の手技を紹介する。
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● Genetic Counseling
〈実践に学ぶ
遺伝カウンセリングのコツ〉 |
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遺伝性腫瘍診療における遺伝カウンセリング
(大瀬戸久美子) |
遺伝医療の中で,特に遺伝性腫瘍診療についてのポイントをまとめた。ここ数年で遺伝性腫瘍診療を取り巻く環境は大きく変わってきている。そして,さらなる発展が求められている中で今一度,遺伝性腫瘍における遺伝カウンセリングのポイントについてまとめた。遺伝性腫瘍診療を取り巻く環境が目まぐるしく変化するとともに発展しているが,変わらないものもある。血縁者間で共有されている可能性や一生涯変わらない情報であるということだ。だからと言って触れてはいけない領域ではなく,むしろ情報提供がされないことによる弊害もある。医療者がまず,特別なこと,難しいことという認識を捨て,遺伝性腫瘍診療に積極的に取り組む必要がある。
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● CGC Diary
〈私の遺伝カウンセリング日記〉 |
リレー執筆 |
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● Statistical Genetics
〈遺伝統計学の基礎〉 (2) |
シリーズ企画 |
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ポリジェニックモデル① 1 バリアントの関連解析
(鎌谷洋一郎) |
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● NEXUS
〈ヒト以外の遺伝子に
関連する研究〉 |
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霊長類の色覚進化
(河村正二) |
脊椎動物は基本的に4種類の色覚オプシンをもち,高度な4色型色覚である。その中で哺乳類は2種類を喪失して2色型となった。しかし,新生代に霊長類では残った2種類の一方をLとMオプシンに分化させ,3色型色覚を出現させた。この出現のさせ方に多様性があり,キツネザル類の一部や新世界ザル類の多くはX染色体1座位L/Mオプシンのアリル多型により様々な3色型と2色型を生じるのに対し,ヒトを含む旧世界霊長類はLとMオプシン遺伝子がX染色体で直列して恒常的3色型となっている。野生霊長類のL/Mオプシンの遺伝子解析から,3色型だけでなく2色型にも意義があることがわかってきた。
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● 編集後記 |
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