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内容目次 |
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「遺伝子医学」復刊によせて
(福嶋義光) |
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「遺伝子医学」復刊によせて
(小杉眞司) |
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● 目で見てわかる遺伝病
−眼科編 1 |
シリーズ企画 |
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巻頭言
(小杉眞司) |
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がんゲノム医療推進コンソーシアムの構想
(吉田輝彦) |
2017年6月27日,厚労省が設置した「がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会」(座長:間野博行国立がん研究センター研究所長)の報告書が公開された。わが国におけるがんゲノム医療の保険診療への実装の基本設計書である。1980年代に産声を上げたヒトがんの分子生物学は,数々のオンコジーンやがん抑制遺伝子を同定した。その頃の基礎研究者たちの夢と希望は,2000年頃には,がん創薬の分子標的薬の時代として,臨床医のもとにも届くようになった。一方,2007年頃からの次世代シークエンサーの普及により,がんの遺伝子・ゲノム異常は,当初の予想を超えて複雑かつ多様であることがわかり,個々のがんのクリニカルシークエンスが先進諸国のがん診療の標準となりつつある。その中で,わが国の特長は国民皆保険である。その強みを活かして,診療と研究,個人情報保護とデータシェアリング,個人から次の世代への橋渡しを基盤とする新たな時代への一歩を踏み出した。断片化したDNAに対する高深度シークエンシングが可能な遺伝子パネル検査による,体細胞のドライバー変異の同定から開始するわが国のがんゲノム医療は,数年のうちに全ゲノム解析も含むようになるであろう。ある意味,ゲノムデータの収集よりもはるかに難易度の高い,臨床情報の縦断的収集と保管,その適切な二次利活用の持続可能なスキームを,保険診療として国民の理解を得ながら作り上げるために与えられている時間は驚くほど短い。
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がんゲノム検査における検査精度 その1.
精度管理に関する業界団体の活動状況等
(近藤直人) |
がんゲノム医療の実装化が政府主導のもと急速な勢いで推進されている。同医療実現の一部をなすのが,がんの原因となる変異を検出するゲノム検査である。この検査結果などを参考に患者の治療方針が決められる。したがって他の検査と同様,ゲノム検査も正確でなければならない。ここでは,この検査の精度を担保する仕組み,精度管理に関する行政ならびに関連学会,業界団体の活動状況を紹介する。
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ゲノム医療時代の病理医の役割
(西原広史) |
個別化診断のために病理検体を用いるがん遺伝子パネル検査は既に病理検査室の入り口まで来ている。病理医は,preanalytical stepにおいて,遺伝子検査に適した病理標本の処理,作製,保管,さらに腫瘍細胞含有率の評価やトリミング指示,DNA抽出法の選定とDNA品質の確認を行う。さらに,preanalytical stepにおけるバイオインフォマティクス解析結果と形態学的病理評価との整合性の検証にも病理医の関与が必要である。今後は,日本病理学会が2018年に資格制度を発足させた分子病理専門医が中心となってゲノム医療の実装を進めていくことになるであろう。
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がんゲノム医療の臨床実装に向けて
(武藤 学) |
次世代シークエンサー(NGS)の登場によって,一度に多くの遺伝子解析が高速でできるようになり,個々のがんで起きている遺伝子異常に基づいた治療が選択できる時代に突入した。いわゆるprecision cancer medicine(精密がん医療)である。米国では,すでにいくつかのがん遺伝子パネルがFDA承認され公的保険の給付対象にもなっている。わが国でもがん遺伝子パネル検査の薬事承認および保険収載をめざした取り組みが開始されるとともに,がんゲノム医療実施体制が整備されつつある。本稿では,がんゲノム医療の臨床実装に向けた課題について解説する。
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クリニカルシークエンシングにおける現行法令・制度の課題と展望
(田澤義明) |
抗がん剤の有効性と安全性の向上を目的に,様々な分子標的薬とそれに対応するコンパニオン診断薬の開発が一般的となって久しい。これに伴い,肺がんや大腸がんなどでは原因となる遺伝子の変異が複数発見され,最近ではマイクロサテライト不安定性やがん関連遺伝子の変異頻度が免疫チェックポイント阻害剤の治療効果に関係するなどのエビデンスも示されつつある。また,同じ遺伝子変異が別のがん種でも発見され,標準治療に効果を示さない患者あるいは希少がん,原発不明がんに対して治験薬あるいは適用外薬を処方することが,患者の延命に有効な選択肢の1つとして考えられている。このような科学と創薬の急速な進歩を背景に,次世代シークエンシング(next generation sequencing:NGS)を用いて複数〜数百のがん関連遺伝子を網羅的に測定し変異のパターンや頻度をプロファイリングすることで最も有効な治療法を選択するクリニカルシークエンシングの臨床実装が重要性を増している。しかしながら,高度で複雑な技術と進化するゲノムデータや治療情報を活用して実現できる従来とは性質が全く異なる検査法の品質・安全性・有効性を的確に審査し,その技術的価値を適切に反映した保険償還の仕組みは明確ではなく,関連する法令および診療報酬制度などの改善・整備が急務である。
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外科領域におけるがんゲノム医療の可能性
(島田能史・市川 寛・永橋昌幸・奥田修二郎・
瀧井康公・若井俊文) |
次世代シークエンサーによるがんゲノム解析に使用するホルマリン固定パラフィン包埋サンプルの作製にあたっては,10%中性緩衝ホルマリン固定液を使用すること,固定は48時間以内とすることが肝要である。がんゲノム解析では,マイクロサテライト不安定性を有するグループを同定することが可能であり,大腸がんや胃がんにおける周術期化学療法の適応決定に有用である。また切除不能進行再発大腸がんでは,ゲノム情報に基づいて治療効果の高い薬剤を選択することにより,効率よくconversion surgeryを行えるようになることが期待される。
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希少がんに対するゲノム医療 −MASTER KEYプロジェクト−
(大熊ひとみ・米盛 勧) |
希少がんは主要ながんと比較して,臨床試験の治療開発基盤がないため,標準的な治療法が確立していない場合が多い。希少がんの治療開発に関しては他のメジャーながんと同様に行ったとしても,治療開発が著しく遅れることは以前より問題となっていた。このため,新しい治療開発基盤づくりが必要とされている。近年の次世代シークエンシング(NGS)の普及および国内のがんゲノム中核拠点病院の整備に伴い,国内でもゲノム医療が推進しつつある。希少がんは特に,ゲノムを含めたバイオマーカーベースの臓器横断的な治療開発が効率的となる領域である。そこで,われわれは本邦でその先駆けとなる「マスタープロトコール」を用いたバスケット型レジストリ研究付きの新しい形の研究プロジェクト「Marker Assisted Selective ThErapy in Rare cancers:Knowledge database Establishing registrYプロジェクト(MASTER KEY
プロジェクト)」を立ち上げた。本稿では希少がんの現状とともにMASTER KEYプロジェクトの概要を説明する。
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がんゲノム医療における人材育成 −メディカルスタッフの育成
(山本寛斉・豊岡伸一) |
ゲノム医療とは,ゲノム情報を網羅的に解析し,疾患の診断・治療・予防などに活用する医療であり,がんのゲノム医療は腫瘍および正常組織のゲノム情報から機能的な遺伝子変異を同定し,特異的に作用する薬剤を提供することである。遺伝子解析の過程で偶発的な生殖細胞変異を認める場合があり,遺伝性・家族性腫瘍や,その他の遺伝性疾患が同定される可能性もある。がんゲノム医療が今後急速に広がることが予想される中で,メディカルスタッフ(看護師,薬剤師,臨床検査技師,バイオインフォマティシャン,認定遺伝カウンセラー,リサーチコーディネーター)の人材育成は喫緊の課題であり,岡山大学における取り組みを中心に解説する。
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がんゲノム医療における二次的所見と遺伝性腫瘍診療
(小杉眞司) |
次世代シークエンサーによるゲノム情報の大量解析が可能となったこと,分子標的薬などがん治療が大きく変化してきている状況で,がん細胞において多数の遺伝子を一度に解析し,その情報を治療に生かすことのできる「がんゲノム医療の時代」がやってきた。その際に生殖細胞系列の遺伝子変異が見出されることがあり,その多くが遺伝性腫瘍の原因遺伝子であることから,患者の血縁者も同一変異を有している可能性があり,ゲノム情報を患者のみならず血縁者の健康管理に役立てることが可能となっている。そのための対応方針について述べる。
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がんLiquid biopsy
(高橋健太・池田貞勝) |
がんliquid biopsyとは,血液などの体液を用いて罹患しているがんの遺伝子変異に関する情報を検索し,診断・治療に役立てようとするがんゲノム検査のことである。近年,検査技術の向上に伴い,血液中などの微量なcell free DNAなどを用いた検査が可能になっている。採取に侵襲を伴うがん組織を用いたがんゲノム検査に対して,liquid biopsyは検体採取に要する侵襲が少ないというメリットがある。本稿では,がんliquid biopsyの現状について紹介し,その展望について説明する。
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CHARGE症候群
(奥野博庸・岡野栄之) |
われわれは,胎児の間に,目,耳,鼻などの感覚器や顔の形成などに重要な役割をもつ神経堤細胞の異常のために,生まれつき目,耳や顔面形成に異常をもつCHARGE症候群患者について,iPS細胞を用いた病気モデルを作製した。このモデルは細胞の動きを実際に観察することができ,より直接的に障害を観察できる。このモデル系を用いて,神経堤細胞の障害により生じる多くの他の病気の病態解明に応用したいと考えるとともに,創薬研究において本モデルは初期の胎児の神経堤細胞に影響を与える薬剤の安全性スクリーニングにも応用可能と考える。
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プラダー・ウィリー/アンジェルマン症候群責任遺伝子座における
ノンコーディングRNA
(目黒牧子・堀家慎一) |
ノンコーディングRNA(ncRNA)とは,まさしくタンパク質をコードしていないRNAであるが,これには古くから機能性RNAとして知られるtRNA(転移RNA)やrRNA(リボソームRNA),snRNA(核内低分子RNA),snoRNA(核小体低分子RNA)に加えて,近年のトランスクリプトーム解析で爆発的に同定されたmiRNA(マイクロRNA)やlncRNA(長鎖ncRNA)などが含まれる。これらncRNAは遺伝子が発現しタンパク質に翻訳される過程の様々なプロセスを巧みに制御している。なかでもlncRNAは,たった2万数千個の遺伝子から多様性や複雑さを生み出すための極めて重要な働きを担っていると考えられている。本稿では膨大な数のlncRNAの中から,PWS/ASゲノムインプリンティング領域におけるlncRNAについて紹介する。
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日本でも加速する希少遺伝性疾患研究とモデル生物研究の連携
(川本祥子・秦 千比呂・井ノ上逸朗) |
未診断疾患イニシアチブ(IRUD)を発展させる研究として,モデル生物により未解決の疾患原因遺伝子を同定し機能を解明するプロジェクトJ-RDMM(Japanese
Rare Disease Models & Mechanisms Network)がスタートした。ショウジョウバエやゼブラフィッシュの他,線虫,酵母など疾患研究にあまり使われてこなかった生物も含め,全国の臨床研究者とモデル生物研究者が協力しゲノム編集などの遺伝学的技術を駆使して迅速な解析をめざしている。開始したばかりのJ-RDMMの概要とモデル生物による解析について解説する。
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● Learning①
〈遺伝性疾患(遺伝病)を学ぶ〉 |
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遺伝性脊髄小脳変性症
(矢部一郎) |
遺伝性脊髄小脳変性症は,慢性進行性の小脳性運動失調を中核症状とする一群の優性遺伝性神経変性疾患の総称であり,病理学的には小脳を中心とした系統変性をきたす。この中には多数の病型が含まれ,病変の程度や分布は病型により異なる。分子遺伝学的な研究が進み,起因遺伝子の解明された病型が増えている。本症は成人発症の場合が多く,検査を行う時点で被検者の子や孫がいることもあり,血縁者への影響が少なくない。遺伝カウンセリングを行う際には,これらの点に留意しながら進めていく必要がある。
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● Learning②
〈難治性疾患(難病)を学ぶ〉 |
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家族性アミロイドポリニューロパチー(遺伝性ATTRアミロイドーシス)
(関島良樹) |
遺伝性ATTRアミロイドーシスは,TTR 遺伝子変異に起因する常染色体優性の遺伝性疾患である。本症患者は,全身臓器へのアミロイド沈着により,末梢神経障害,自律神経障害,心筋症,眼症などを発症し,自然経過では発症から10〜15年で死亡する。しかし近年,肝移植,TTR四量体安定化薬,遺伝子治療などの疾患修飾療法が開発され,患者予後が劇的に改善している。また,遺伝カウンセリングによる家族への情報提供や発症前診断を積極的に検討するケースが増加しており,遺伝性神経疾患のゲノム医療は新たな局面を迎えている。
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遺伝子・ゲノム情報検索に役立つ基本的なWebツールの使用法
(佐藤謙一) |
ヒトゲノムプロジェクトによる全ゲノム解読が2003年に完了し,その後の次世代シーケンシングを代表とするゲノム解析技術の目覚ましい発展とコンピュータ性能の飛躍的な向上により,個人のゲノム解析が短時間で簡単に低コストにて実施できるようになった。これにより,種々の疾患・病態とゲノム情報の多様性との関係についての研究が進められ,その成果は「ゲノム医療」として,疾患や病型の診断,治療方針決定,予後予測など臨床の場に展開されつつある。「ゲノム医療」の実践には,これまでの莫大な研究成果が蓄積されるデータベースと患者個々のゲノム情報を照合し,必用な情報を汲み上げる必要がある。ここでは,得られたゲノム情報を臨床に展開するために必要な基本的なWEBツールを紹介する。
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エクソーム解析ってどうやるの?
(三宅紀子) |
全エクソーム解析(whole exome sequencing:WES)は,タンパク質をコードするエクソン領域を効率的に解読できる非常にパワフルな解析方法であり,現在ヒト疾患解析の主流となっている。WESでは,患者由来のゲノムを断片化し,ゲノム分画を行った後,次世代シークエンサーで塩基配列情報を獲得し,様々なバイオインフォマティクス解析で,疾患の原因となる病的バリアントを同定していく。本稿では,WES解析の実際の流れと注意点について述べる。
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分染法による染色体検査
(江口真希・原田直樹) |
染色体異常は,配偶子に由来し個体の全身の細胞にみられる構成性(生殖細胞系列)の異常と,がん細胞など体細胞に生じた変異に由来する獲得性(体細胞)の異常に大別される。生殖細胞系列染色体検査では,染色体異常症の確定診断,多発奇形・成長障害,生殖障害の原因検索および出生前診断を目的とし,体細胞染色体検査では,悪性腫瘍・血液疾患における病型分類や治療効果判定を目的とする。本稿では,本邦において染色体検査として最も普及している分染法による形態学的検査について,G分染法の原理と分析手順,各種分染法の特徴と適用について概説する。また,結果解釈に注意を要する染色体異形の特徴や同定方法についても紹介する。
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FISH(Fluorescence in situ hybridization)法
(涌井敬子)
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FISH法は,先天異常患者や造血器腫瘍細胞における微細な染色体構造異常の検出を目的に,遺伝医療に臨床応用された細胞遺伝学的解析技術である。しかし染色体分裂像を得なくても,間期核で既知の遺伝子や染色体領域のゲノムバリアントの評価も可能という特性と,ヒトゲノム解析研究の成果を受けて,現在では様々な固形腫瘍のドライバー変異の効率的な検索法にも応用されるなど,がん医療にも普及した。他の遺伝学的検査の結果も参考に適切なプローブを選択して実施し,遺伝医学の知識を基盤に適切に解釈することがゲノム医療への応用のため重要である。
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● Genetic Counseling
〈実践に学ぶ
遺伝カウンセリングのコツ〉 |
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院内連携から遺伝カウンセリングのコツを考える
(秋山奈々・朽方豊夢・鶴岡智子) |
遺伝カウンセリングの準備,実施,クライエントのフォローアップをスムーズに行うにあたり,院内の様々なスタッフとの連携が重要な役割を果たすケースは少なくない。紹介元の診療科が考えているクライエントに対する遺伝学的検査の意味と,私たち遺伝カウンセリング担当者が考える意味合いが違ってくることは,基本なるスタンスが異なっているため当然のことと考える。お互いのスタンスや遺伝カウンセリングの必要性を院内のスタッフと共有していくことで,院内連携の垣根を下げ,よりストレスの少ない連携が可能になると考える。
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● CGC Diary
〈私の遺伝カウンセリング日記〉 |
リレー執筆 |
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試されるCGCは北の大地を盛り上げることができたのか?
(柴田有花) |
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● Statistical Genetics
〈遺伝統計学の基礎〉-(1) |
シリーズ企画 |
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生活習慣病の易罹患性検査が受検者の行動に与える影響
(西垣昌和) |
ゲノムワイド関連解析(GWAS)技術の普及とともに,多因子疾患である生活習慣病の遺伝学的背景の解明が進んできた。しかし,GWASにて同定された疾患感受性遺伝子を用いた生活習慣病発症予測モデルに臨床的意義は少ないとされている。また,易罹患性検査による発症予測と,それに基づく生活習慣介入では,対象者の予防に関する行動変容は促進されないことが複数のランダム化比較試験にて明らかにされている。現状では,生活習慣病の易罹患性検査に臨床的な意義はなく,疾患感受性遺伝子の探索やカウンセリング方法に関するさらなる研究が必要である。
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● NEXUS
〈ヒト以外の遺伝子に
関連する研究〉 |
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哺乳類エピゲノムの多様性と進化
(中林一彦) |
哺乳類におけるエピゲノム多様性・進化の理解は,ヒトにおけるエピゲノム多様性とその疾患への関与の分子機構を解明するための手がかりとなる。近年の比較ゲノム・比較エピゲノム解析により,遺伝子発現制御領域のエピゲノム多様性・進化の理解が急速に進んでいる。主に哺乳類について,エピジェネティック制御機構,エピジェネティック制御を受ける生命現象(X染色体不活性化・ゲノムインプリンティング),エピゲノムの進化・多様性に関する知見を紹介する。
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