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内容目次 |
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序文 (辻本賀英) |
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1. |
総説
(惠口 豊) |
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細胞死の分子機構の研究が本格的に始まって約30年が経過した。その間,多くの研究者がそれぞれユニークな観点から細胞死研究にアプローチし,われわれは細胞死に関する膨大な知識を得ることができた。少なくともアポトーシスの分子基盤の基本原理はかなり理解されたと思われるが,研究の多様なアプローチのおかげで細胞死の全体像はまだうまく整理できていないのが現状であり,そのため研究者の認識にも統一的見解は得られていないと思われる。本稿では,細胞死の分子メカニズムに特化し,その研究の現状と将来像について考察してみたい。
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2. |
ネクロプトーシス(プログラムネクローシス)
(今川佑介・惠口 豊) |
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これまでプログラム細胞死の研究はアポトーシスを中心に行われてきたが,アポトーシスの全容が解明されるにつれて,非アポトーシス型のプログラム細胞死にも注目が集まっている。その非アポトーシス型プログラム細胞死の中で,今注目されているのがネクロプトーシス(プログラムネクローシス)である。ネクロプトーシスは,その制御因子および阻害剤の同定をきっかけに多くの研究者が活発に研究を行っている。本稿では,その特徴および実行経路,生理的役割について概説する。
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3. |
オートファジー細胞死の分子機構とその生体での役割
(清水重臣) |
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自己構成成分を分解するシステムであるオートファジーは,多くの場合は生に貢献するために機能している。しかしながら,細胞に強い刺激が加わると過剰なオートファジーとともにJNKが活性化され,オートファジーを介した細胞死が実行される。このオートファジー細胞死は,アポトーシスの代替機構として傷害細胞や不必要な細胞の処理を担っている。
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1. |
心疾患における非アポトーシス性細胞死の役割 - オートファジーとMPT -
(中山博之・大津欣也) |
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虚血性心疾患や心不全の進行において心筋細胞死が重要な役割を果たしている。心筋細胞死はその形態より,アポトーシス性,オートファジーを伴う細胞死およびネクローシス性細胞死に分類され,いずれも病態形成に関与していると考えられる。アポトーシス性細胞死は詳細な機構が明らかになっており,臨床への応用によりその意義が検証されるであろう。オートファジーはその分子機構の解明が進行中であり,心不全において細胞保護的な作用が示されている。従来,偶発的細胞死と考えられていたネクローシスの分子機構の解析は始まったばかりと考えられ,心筋においてさらなる詳細な検討が必要である。
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2. |
ミスフォールドタンパク質による神経細胞死と治療戦略
(守村敏史・高橋良輔・漆谷 真) |
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遺伝性・孤発性を問わず,神経変性疾患の多くは正常な構造を逸脱したタンパク質が細胞の内外に蓄積することにより引き起こされる。このような言わば 『ミスフォールドタンパク質』 は異常会合によるオリゴマーやフィブリルを形成し,細胞内異所性局在,細胞外への放出,プリオン様の細胞間伝搬などを介して,疾患の発症や病態進行に極めて重要な役割を果たすと考えられている。近年,ミスフォールドタンパク質の高分子化や局所分子変化が明らかにされ,免疫療法や低分子化合物などの病原構造特異的な分子標的治療が注目されている。
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3. |
がんと細胞死
(竹原徹郎) |
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がんを特徴づける形質は無秩序な細胞増殖と細胞死に対する抵抗性である。細胞死抵抗性を付与するメカニズムは多様であるが,B細胞リンパ腫におけるbcl-2遺伝子の再構成と過剰発現はそのプロトタイプであり,ミトコンドリア経路のアポトーシスを統べるBcl-2ファミリーの発見につながった。肝がんでもBcl-xLの高発現がみられ,肝がんのアポトーシス抵抗性に関与しており,肝がんの治療の標的になる可能性がある。一方,肝がんは肝細胞のアポトーシスで特徴づけられる肝炎を基盤に発症することが臨床的に知られているが,持続的に肝細胞でアポトーシスが起こるマウスは肝がんを自然発症することが示された。臓器全体でみると細胞死は肝がんの発生を促進し,進展を抑制するという両面性をもっているということができる。
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4. |
糖尿病における膵島構成細胞の生死
(石原寿光) |
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膵β細胞量は,既存のβ細胞の複製あるいは仮想的前駆細胞からのβ細胞の新生により増加し,一方,アポトーシス,オートファジー,ネクローシスの3つのプロセスを基盤とする細胞死により減少する。また最近では,β細胞が内分泌前駆細胞に脱分化することもβ細胞減少の一因であることが示されている。細胞死や脱分化に向かわせる誘因として,酸化ストレス,小胞体ストレスなどを含んだ環境ストレスが重要である。これらの因子がもたらす細胞の運命決定のメカニズムに関して,着実に解明への進歩が遂げられているが,未解決の問題も多い。
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5. |
Bcl-2タンパク質を標的とする化合物と作用機序の分子メカニズム
(岡本 徹・松浦善治) |
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アポトーシスはダメージを受けた細胞,不要となった細胞を生体内から除去するために必須なシステムであり,その破綻は自己免疫性疾患や発がんなどの様々な疾患の原因となる。アポトーシスの制御において,Bcl-2ファミリーに属するタンパク質群はその中心的役割を演じている。本稿では,Bcl-2タンパク質間の相互作用によるアポトーシスの制御機構とBcl-2タンパク質ファミリーを標的とする化合物や機能性ペプチドの最近の知見について概説する。
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6. |
視細胞死とセマフォリンの役割
(豊福利彦・熊ノ郷 淳) |
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視細胞の欠損は視力障害をきたす3大疾患の1つである網膜色素変性症の特徴である。その主病因は視細胞の光感受性の亢進による過剰な細胞死である。背景に遺伝的要因があり,セマフォリン4A(Sema4A)の点変異をもつ家族発症例が報告されている。Sema4A欠損や点変異を導入したマウスは光刺激に対して過剰な視細胞死を示した。Sema4Aの作用は色素上皮細胞内で視細胞の生存維持に必要なプロサポシン・レチノイドの膜輸送を制御して,視細胞への供給を行うことであった。
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1. |
細胞死関連のトランスレーショナルメディシンの現状
(杭田慶介) |
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アポトーシスは,生態のホメオスタシスを保つ重要な生理機能として分子レベルでの解析がなされた。その機構を使って臨床応用が試みられている。特に,BCL-2ファミリー分子阻害剤,Smacの類似ペプチドを使った化合物,デスレセプター分子を活性化する抗体およびリガンド,そしてBCL-2ファミリー分子機構を使ったがんの治療薬に対する感受性を調べる検査,アポトーシスの分子機構の画像診断への応用が主だった領域である。
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2. |
細胞死制御分子の開発と応用 細胞死のケミカルバイオロジー
(どど孝介・袖岡幹子) ※ど=門+眞 |
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近年,低分子化合物をプローブとして生命現象の解明を進める研究が,ケミカルバイオロジーという研究領域として注目されている。ケミカルバイオロジーで開発される化合物は生物学のツールとしてだけではなく,関連する疾患の治療薬としても期待される。われわれは,本分野で細胞死を誘導ないしは抑制する低分子化合物「細胞死制御分子」を開発し,これを用いて細胞死のコントロールおよびその制御機構の解明をめざしている。本稿では,われわれの開発したネクローシス抑制剤 IM-54 を含めいくつかの細胞死制御分子を取り上げ,その開発と応用に関して述べる。
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3. |
HDAC/Sirtuin 阻害剤・活性化剤と疾患治療
(中川 崇) |
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ヒストン脱アセチル化酵素(histone deacetylase:HDAC)は,アセチル化されたリジン残基を脱アセチル化する酵素であり,ヒストンに限らず様々なタンパク質を基質とする。HDACは4つのクラスからなり,そのうちNAD依存性のClassⅢはsirtuinと呼ばれる。HDAC/sirtuinはがんや神経変性疾患,肥満・糖尿病など様々な疾患に関与していることが知られており,治療標的としてこれら分子の阻害剤・活性化剤の研究・開発が活発に行われている。本稿では,HDAC/sirtuin阻害剤・活性化剤の国内外における研究・開発の現状と,その作用メカニズムにおける細胞死との関連について概説する。
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●索引 |