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内容目次 |
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序文: |
今後の生物医学研究から再生治療までを支える
「細胞3次元組織化」 に注目
(田畑泰彦) |
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序章: |
細胞3次元組織化の重要性
(田畑泰彦) |
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再生医療は,細胞の増殖・分化能力を介して自然治癒力を高め,病気を治す医療である。この再生医療は再生研究と再生治療からなる。再生研究とは,細胞能力を調べる基礎生物医学研究と,細胞能力を高める薬を開発する創薬研究であり,細胞能力を活用した治療が再生治療である。いずれに対しても,材料,加工,培養技術を駆使して,体内に近い周辺環境を細胞に与え,細胞の3次元相互作用システムを構築することで細胞を組織化,その能力を高めることが大切となる。本稿では,再生治療と再生研究における 「細胞3次元組織化」 の重要性と必要性を述べる。
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1) |
合成高分子(生体非吸収性)
(岩﨑泰彦) |
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われわれの身のまわりは高分子製品 「プラスチック」 で満ち溢れており,高分子科学の進歩によって日々の暮らしが豊かになったことは自明である。このことは,医療分野においても同様で,多くの医療用器具が高分子でできている。化学的に合成された非生体吸収性高分子は,再生医療分野から縁遠いものと捉えられるかもしれないが,細胞培養器具のほとんどに合成高分子が利用され,最近では人工細胞外マトリクスとして in vivo で機能する合成高分子も見出されている。本稿では,合成高分子(生体非吸収性)の基本的な製法について解説するとともに,細胞親和性に優れた合成高分子について紹介する。
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2) |
合成高分子(生体吸収性)
(城 潤一郎・田畑泰彦) |
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生体内で分解され,分解産物が代謝・排泄あるいは吸収される高分子は,生体吸収性高分子と呼ばれ,一時的に効果を発揮することが求められる薬剤担体や外科用材料のための素材として医療分野に多大な貢献をしてきた。本稿では,生体吸収性合成高分子の概要および代表的な生体吸収性合成高分子について紹介し,細胞3次元組織化のための生体吸収性合成高分子からなる足場の設計について概説する。
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3) |
天然高分子(タンパク質)
(木村 祐) |
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タンパク質は生体を構成する主要な成分の1つであり,細胞においては乾燥重量の約半分を占めている。化学的には種々のアミノ酸がペプチド結合(アミド結合)で連なるポリペプチドであるが,遺伝子で保存された情報をもとに産生されるタンパク質は生体内で多様な機能を担っており,これらを材料として用いる,あるいはこれらがもつ生物活性の制御を行うことは,非常に重要な意味をもつと考えられる。本稿では,タンパク質のもつ多様な機能について概観する。加えて,その臨床応用や細胞の3次元組織化に対するタンパク質の役割について述べる。
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4) |
コラーゲン,ゼラチン
(塚本啓司・平岡陽介) |
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コラーゲンとその熱変性物であるゼラチンは,われわれ人類がはるか古代エジプト時代から利用してきた材料である。近年では,コラーゲン,ゼラチンは細胞培養の基材や薬剤徐放のキャリアとして基礎研究から臨床応用に至るまで幅広く再生医療分野において利用されるようになってきており,今後の再生医療分野において必要不可欠なバイオマテリアルであるといえる。本稿では,今後の3次元組織化に必要不可欠な材料としてコラーゲン,ゼラチンを取り上げ,それらの基礎的性質ならびに利用特性について述べる。
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5) |
天然高分子(多糖)
(齊藤高志・田畑泰彦) |
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多糖は,植物・動物の体内に存在する生命機能維持には必須の高分子であり,生合成産物として得られ,組織・臓器の構造維持,エネルギー貯蔵などの多様な性質を示す。そのため,医薬品添加物,医用材料などに古くから利用されてきた材料である。また,最近ではドラッグデリバリーシステム(DDS),細胞足場への応用も注目されている。本稿では3次元細胞足場材料としてよく利用されている多糖の物理化学的性質・生物学的性質を概説し,3次元細胞足場の設計,使用方法とそのメリット・デメリットについて実例を用いて紹介する。
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6) |
細胞外マトリクスの材料としてのヒアルロン酸
(橋本正道) |
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ヒアルロン酸(HA)は,高等動物の関節液・硝子体・皮膚などに広く分布する高分子量のグルコサミノグリカンである。HAは,その高い生体親和性と粘弾性などの特徴から,整形外科/形成外科/眼科領域の医薬・デバイスが開発されてきた。また発生分化や炎症再生などの基礎的な役割が少しずつ解明され,細胞足場としての応用面から再生医療材料の開発が検討されている。
本稿では,HAの基本的な特性について概説し,細胞3次元組織化の材料としての可能性について述べる。
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2. |
セラミックス
(石川邦夫) |
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生体機能性を示す機能性セラミックスはバイオセラミックスと呼ばれる。バイオセラミックスは生体活性セラミックス,生体不活性セラミックス,生体吸収性セラミックスに分類されるが,生体はアパタイトに代表される生体活性セラミックスを非自己とは認識せず,アパタイトは骨や軟組織と結合する。また,細胞の初期接着・増殖・分化を促進することも知られている。一方,細胞の3次元組織化には連通多孔体の調製が重要な役割を担うが,溶解析出反応によって硬化するアパタイトセメントなどに易溶性材料を導入する方法,炭酸ガスを発生させる方法,顆粒を硬化させる方法などで連通多孔体セラミックスが調製される。細胞の3次元組織化に関しては特に細胞の接着・増殖・分化などを促進する機能,少なくとも阻害しない機能が求められる。
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3. |
金属
(塙 隆夫) |
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金属材料は,たとえ同じ組成の合金でも加工や熱処理といった製造プロセスの相違で,多くの異なる性質の材料を創り出すことが可能である。また,タンパク質や細胞が接触するような生物環境では,多くの金属材料の表面状態は不可逆的に変化していく。生物環境で金属材料を扱うためには,その表面組成と環境による変化について知る必要がある。さらに,再生医療足場材料として使用するための細胞機能を向上させる表面処理技術,3次元積層技術についても解説する。
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4. |
複合材料
(松井 誠・田畑泰彦) |
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臓器移植に代わる新しい治療法として,増殖分化能力の高い幹細胞を用いた生体組織の再生治療に大きな期待が寄せられている。一般的に生体内では,細胞が細胞外マトリクスの足場に接着して3次元的に臓器が構築されているため,生体組織を再生するためには細胞を3次元的に相互作用させて組織を構築する必要がある。しかし現在の技術では,細胞のみで3次元的な組織構築を実現することは困難なため,材料技術を応用する必要がある。本稿では,細胞3次元組織化のために研究開発されている足場材料の中でも,複数の材料で構成された足場材料に焦点を当てて概説する。
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1) |
ナノピラープレート(3D細胞培養器材)
(神田勝弘) |
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ナノピラープレートは,nm〜μmオーダーの微細構造を応用した3D細胞培養(スフェロイド培養)器材であり,スフェロイドの大きさ・形状・数・位置の制御に適していること,栄養素およびガス交換を効率的に行えること,細胞外マトリクスなどによるプレート表面のコーティングあるいはフィーダー細胞などとの共培養を必要としないことなどの特徴がある。特に創薬分野では,ヒト由来肝細胞スフェロイドを用いた肝毒性評価をはじめとする,従来よりも in vivo の状態を反映しうる in vitro 評価系として,創薬プロセスへの導入による新薬開発効率化が期待されている。
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2) |
細胞3次元組織化のためのバイオマテリアル設計技術
(平山美樹・伊勢裕彦・赤池敏宏) |
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細胞膜や細胞壁に存在する糖鎖は細胞認識能を発揮しながら生命活動に深くかかわっている。糖鎖の細胞認識能をバイオマテリアル設計に導入することで,細胞機能制御-細胞社会の組織化への応用を試みた例として,様々なオリゴ糖を組み込んだ合成高分子を用いて行った研究を紹介する。疎水性のポリスチレンを骨格とした種々の糖鎖を側鎖に有する高分子を設計することにより,種々の細胞を特異的に接着し,細胞の機能維持・制御が可能な培養基材が実現した経緯とその応用について整理しながら,これからのバイオマテリアル設計について述べる。
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3) |
ハイドロゲル
(戸田裕之・田畑泰彦) |
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近年,再生医療の実現に向けて,種々の細胞を用いた研究が行われている。細胞のもつ力を最大限に発揮させるには,目的に合わせて作製されたバイオマテリアル(生体材料)を組み合わせ,適切な細胞周辺環境を与えることが必要不可欠である。加えて,1つ1つの細胞を3次元組織化することで,より生体内の環境に近づけることも重要となってくる。本稿では,有用なバイオマテリアルの1つであるハイドロゲルを用いた細胞の3次元組織化に着目し,その材料特性や機能化手法,組織化の手法について紹介する。
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2. |
多孔質足場材料
(陳 国平・川添直輝) |
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再生医療のために生体吸収性高分子の多孔質足場材料がよく用いられている。効率よく組織を再生するためには,多孔質足場材料の空孔構造を適切に制御すること,適切な原材料を選択することが必要である。高分子多孔質足場材料の表面および内部空孔の構造を制御するために,あらかじめ作製した氷微粒子を利用する方法が開発された。この方法を用いて,多孔質構造を制御した高分子多孔質足場材料が得られた。また,マイクロパターン化した空孔と細胞成長因子を多孔質足場材料に導入することができた。さらに,生体吸収性合成高分子と天然高分子を組み合わせることにより,複合多孔質足場材料が開発された。本稿では,これらの生体吸収性高分子多孔質足場材料の作製法と特徴についてまとめた。
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3. |
繊維・繊維構造物
(平 嗣良) |
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従来からある合成繊維の製造・加工技術は,衣料や日用品のみならず医療分野でも様々な用途で応用されている。生体吸収性材料の縫合糸が開発されて以降,繊維の加工技術との組み合わせにより再生医療分野に応用されている。生体吸収性高分子からなる繊維構造物は,細胞を3次元的に組織化するための足場あるいは3次元化された組織の補強材料として使用されている。繊維径の制御,他の素材との複合化などにより,細胞接着の足場や組織の補強材としてのみならず,人工的な細胞外マトリクスとしての機能付与も可能になってきている。
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4. |
ナノファイバー
(宇山 浩) |
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ナノサイズのファイバー作製法として注目されている電界紡糸を概説する。簡便な装置で既存のファイバー化技術では対応できないバイオ系高分子などの材料も紡糸することができ,単独紡糸できない材料でも容易に複合ファイバー化が可能である。得られるファイバー不織布はナノスケールの材料特性を活かすことで,細胞足場材料をはじめとして様々なバイオマテリアルに応用できる。ドライスピニング技術を用いると,極細ファイバーからなる3次元構造体が得られる。
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5. |
マイクロキャリア
(川端慎吾・黒川祐人) |
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接着依存性細胞を用いて有用物質(タンパク質やウイルスなど)を大量かつ効率的に得ることを目的に,高密度培養は古くから研究・開発が進められてきた。接着依存性細胞を増殖させる方法として開発されたマイクロキャリアは,浮遊性細胞と同様の攪拌培養が可能であり,接着依存性細胞の高密度培養に適した代表的な培養手法の1つである。本稿では,マイクロキャリア上での接着依存性細胞の培養を効率的に行うために必要な基本特性(表面特性,光学特性,形状など)に加えて,培養工程ならびに培養生産の実例を述べる。
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6. |
インクジェットによる1滴1細胞プリント
(山口修一) |
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細胞の積層により3次元的な組織構造を作るための基礎研究として,インクジェット技術を応用して,細胞を指定位置に1個ずつプリントする方法の研究を行った。
具体的には,ノズル先端部がスケルトン状態の構造からなるピエゾインクジェットヘッドのノズル先端部の画像データを取得し,ノズル先端部の1滴吐出領域内にある細胞数が1個の時にのみ,押し打ち法を用いてピエゾ素子を駆動することにより,1滴中に1細胞を含んだ状態で液滴を吐出させ,99%の確率で1細胞を指定位置に自動プリントすることに成功した。
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7. |
傾斜機能化技術
(山本雅哉・田畑泰彦) |
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生体組織では,骨-軟骨界面,骨-軟組織界面など,その構造が傾斜的に変化している場合が少なくない。さらに,これらの界面構造に加えて,生体シグナル因子の濃度傾斜が個体発生における形態形成では重要な役割をもつことが知られている。このように傾斜的に構造が変化する生体組織を細胞の3次元組織化により人為的に構築するためには,細胞の増殖・分化・遊走を傾斜的に制御する技術が必要不可欠である。本稿では,細胞の3次元組織化に必要な技術の1つとして,生体シグナル因子の濃度,および細胞足場材料の多孔質構造に対する傾斜機能化技術について概説する。
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8. |
吸収性多孔質セラミックス
(赤澤敏之・村田 勝・田崎純一) |
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部分溶解・析出(PDP)法により,多孔質β-リン酸三カルシウム(β-TCP)を部分溶解,リン酸カルシウム(CP)微結晶を析出,複合化した生体模倣材料(PDP-TCP)を作製した。ラット背部皮下組織内への埋入では,攪拌PDP-TCPは少ない骨形成タンパク質(rhBMP-2)用量でも骨形成が可能となり,表層の濃染性,バルクの崩壊吸収,骨-β-TCP のモザイク状構造が観察された。3重気孔構造の超音波PDP-TCPは,血管新生と顕著な体液浸透,材料表面に多数の多核巨細胞が認められ,高い細胞増殖性が示唆された。
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9. |
多孔質化・表面形状制御生体用金属材料
(中野貴由) |
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金属材料は高い力学的信頼性から骨代替用材料として広く用いられており,なかでもチタン(Ti)ならびにチタン合金はオッセオインテグレーションにより骨との強固な結合を可能とする。一方で細胞を用いた3次元骨組織化にとって,生体用金属材料の多孔質化による骨伝導/誘導や表面形状制御は,足場材料として骨系細胞に最適空間を与えることになる。本稿では,骨系細胞を活用しつつ,生体用金属インプラント周囲骨の健全化を促すため,近年注目されている3次元金属積層造形法による金属インプラントの多孔質化・表面形状の任意形状設計化手法,さらには造形インプラントを用いた骨再生について紹介する。
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1) |
細胞接着性ペプチドと細胞の3次元組織化への応用
(平野義明) |
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細胞外マトリクスに含まれる細胞接着分子(タンパク質)の活性部位やそれに関連する調節分子が,分子生物学的手法によって明らかにされた。その結果,種々の細胞接着性タンパク質の細胞接着活性部位のアミノ酸配列が,細胞接着性ペプチドとして数多く明らかにされてきた。本稿では,フィブロネクチンやコラーゲンに代表される細胞接着活性部位のアミノ酸配列について述べる。さらには,フィブロネクチンの細胞接着活性部位であるRGDS配列を含んだ種々の分子を設計し,細胞の環境をコントロールする手法や3次元組織化をめざした細胞集合体作製方法についても記載する。
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2) |
DNAを用いて細胞を望みの位置に配置する表面修飾方法
(寺村裕治・岩田博夫) |
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DNAが末端に結合したポリエチレングリコールとリン脂質の複合体(DNA-PEG脂質)を細胞の表面修飾剤として利用できる。両親媒性を示すDNA-PEG脂質は,疎水性相互作用により自発的に細胞膜に導入されるため,様々なDNAを細胞表面に提示でき,細胞接着に利用できる。この技術を応用することで,細胞同士の相互作用を調べることが可能になる。また,糖尿病治療のための膵ランゲルハンス島(膵島)移植にも利用できる。患者由来の細胞を膵島に接着させ,免疫拒絶反応が起こりにくい膵島の表面加工が可能になるかもしれない。
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11. |
MEMSおよび関連技術
(馬場嘉信) |
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MEMS技術は,センサーやアクチュエータを作製するための基盤技術として実用化されている。さらに最近,細胞の3次元組織化により細胞組織や臓器をデバイス上に構築する organs on chips や細胞シートなどの再生医療のための幹細胞の足場技術として研究開発が急速に進展している。本稿では,細胞3次元組織化のためのMEMS技術の基礎技術であるマイクロ構造作製,ナノ構造作製,3次元微細構造構築,アクチュエータ構造構築から organs on chips への応用について解説する。
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1) |
細胞だけで立体的な構造体を作製するバイオラピッドプロトタイピングシステムの開発
(川勝美穂・大嶋利之・田中麻衣・中山功一) |
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われわれは古典的な生物学の知見と整形外科医の骨折治療のテクニックから着想した,細胞だけで立体的な細胞構造体を作製する手法を開発した。さらに,微細加工技術,ロボット技術など様々なものづくりの技術を組み合わせた,バイオ3Dプリンターともいうべき,立体構造体自動形成装置も開発し,軟骨,血管,肝臓など様々な細胞で良好な初期データが得られており,いくつかのパイプラインは数年以内の臨床応用に橋渡しできると期待されている。
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2) |
インクジェット技術を用いた3次元積層造形物の作製および再生医療への応用
(荒井健一・中村真人) |
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再生医療,組織工学では,培養皮膚や軟骨が実用化し,重厚な重要臓器への進歩が期待されている。多種細胞で構成されミクロの特殊な構造がある3次元の人工的な組織を構築するには,従来とは異なるアプローチで組織を構築する技術の開発が必要と考え,われわれは細胞の配列を制御しながら3次元構造を積層造形する装置3Dバイオプリンターの開発に取り組んだ。われわれは3Dバイオプリンター装置を改良し,より複雑な3次元構造体の作製に成功した。本稿では,われわれの技術改良の取り組みを中心に紹介する。
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2. |
印刷技術
(森田育男) |
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21世紀の先端医療である再生医療は,iPSの出現により大きな展開がなされている。将来的に,細胞はiPSを用いる場合においてもスキャフォールド(担体)をどのように用いるかが,重要なポイントとなっている。本稿では,スキャフォールドとしてヒト羊膜を用い,その羊膜に細胞を印刷技術を用いて転写,パターニングする技術を紹介する。さらに,血管内皮細胞を用いた場合には,羊膜に転写する際に血管が形成されるという特徴をもっている。一方,本方法はスキャフォールドなしで直接細胞を体内に転写することも可能であり,今後,再生医療に大きな貢献をすると考えている。
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1) |
組織化のためのMEMS技術
(尾上弘晃・竹内昌治) |
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臓器に代表されるマクロな生体組織の構築法として,細胞で構成された様々な形状のビルディングブロックを組上げる「ボトムアップ型」の組織工学が注目されている。このビルディングブロックを均一に精度よく,かつ大量に作製するため,MEMS・マイクロ流体デバイス技術が利用されている。本稿では,点形状のビルディングブロックであるスフェロイドとハイドロゲルブロック,また線形状のビルディングブロックとしてハイドロゲルマイクロファイバーについて,作製法と組織構築法について述べる。
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2) |
創薬研究ツール
(安田賢二・野村典正・寺薗英之・服部明弘) |
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ヒトiPS細胞の出現によって創薬スクリーニング法もヒト細胞を用いたものが検討されている。特に最も分化誘導技術の開発が進んでいるヒト心筋細胞については,実際の致死性不整脈を引き起こす「興奮伝導異常」を計測するオンチップ計測技術を用いることで,①細胞のカリウムイオンチャネルの応答のゆらぎ解析による安定性変化の定量化(時間的観点),②心筋細胞ネットワークでの伝達状態のゆらぎ解析による伝達異常の定量化(空間的観点)によって,従来の計測法で偽陰性・偽陽性と評価されてきた候補薬の催不整脈リスクを正確に計測することが可能となりつつある。
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4. |
バイオマテリアルの3次元造形
(鄭 雄一) |
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不可逆性の骨変形・欠損に対しては,バイオマテリアルの形状を3次元的に制御した人工骨が求められている。骨の主成分であるリン酸カルシウムをインクジェットプリンターを用いて積層造形することで,病変部に適合する複雑な形状をもつ人工骨を作製することができる。こうしてできた人工骨は,形状適合性のゆえに,手術時間を短縮し,患者への侵襲を減らすことができるだけでなく,人工骨と母骨が密着するために癒合も促進した。
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1) |
スフェロイド培養チップ
(中澤浩二) |
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スフェロイド(球状マイクロ組織体)培養法は,各種細胞の機能維持培養や幹細胞の分化誘導などに利用されている。このようなスフェロイドの特性は,その大きさや隣接するスフェロイド間距離と密接に関わっている。われわれは,培養基板上に数百ミクロン単位の微細培養空間を設けたマイクロチップを用いて,スフェロイドのサイズ制御,大量形成,アレイ化培養を達成できる技術,さらには光応答性ゲルを利用して任意かつ段階的にスフェロイドを形成できる技術の確立に成功した。これらの技術は,再生医療研究や各種細胞アッセイなどへの利用が期待できる。
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2) |
生体吸収性ハイドロゲル粒子を活用した細胞集合体の生存と機能の向上
(田畑泰彦) |
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細胞は体内で3次元的な集合体を形成することによって,その生物機能を向上させている。そのため,細胞機能のより詳しい研究には3次元細胞集合体を用いた培養が必要となる。しかしながら,単に集合体を形成させるだけでは,集合体内部の状態が悪く細胞が死んでしまう。本稿では,この問題点を解決する方法論について述べる。生体吸収性ハイドロゲル粒子を細胞集合体内に含ませることで,集合体内部への酸素や栄養の供給が可能となり,細胞状態の改善がみられた。ハイドロゲル内に細胞増殖因子などの薬物を入れ,自由なタイミングで放出させることもでき,今後の3次元細胞集合体を用いた細胞研究の発展に有効な方法論となる。
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3) |
間葉系幹細胞の集合体化技術と軟骨再生医療への応用
(森口 悠・中村憲正) |
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培養系で体の組織構造を再生させる研究として提唱された組織再生工学は,多能性をもつ幹細胞とその足場となるバイオマテリアルの使用により急速に発展してきた。さらに細胞シート工学をもとに,足場を要しない細胞集合体として移植する多くの新技術が開発された。われわれは,関節において重要な機能を担う軟骨組織の再生を目的として,独自の方法で間葉系幹細胞と細胞自身が合成する細胞外基質からなる細胞集合体を作製する技術を開発し,これを種々の軟骨への細胞移植法として応用した。修復軟骨の組織学・生体力学的考察からはさらなる治療への展開が提示された。
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4) |
3次元組織化技術を利用したヒトES/iPS細胞から肝細胞への分化誘導法
(長基康人・高山和雄・水口裕之) |
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ヒトES細胞やヒトiPS細胞から分化誘導した肝細胞は,再生医療への応用や創薬応用,特に in vitro 薬物毒性試験への応用が期待されている。近年では様々な手法を用いて,その肝成熟化の促進が盛んに試みられており,本稿では特に3次元培養技術を用いて肝細胞を分化誘導する方法について解説する。
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5) |
セラミックス製マイクロウェル担体
(今泉幸文・武居俊輔) |
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セラミックス基板上にマイクロウェルをパターニングし,均一な細胞集合体を多量に作製できる3次元培養担体とその細胞集合体の特性について紹介する。細胞は接着する担体の表面状態により細胞形態を変化させ,培養空間を制御することで細胞集合体の大きさと形を均一にする。間葉系幹細胞の均一な細胞集合体から分化誘導した軟骨組織の硝子軟骨の純度が向上した培養結果や均一な細胞集合体に連続的に培養液を供給する新しい培養方法などについても紹介する。
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1) |
細胞積層法・細胞集積法
(松崎典弥・明石 満) |
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本稿では,1細胞レベルでの詳細な3次元組織化制御を可能とする新しい3次元組織化技術として,細胞積層法・細胞集積法を紹介する。構築された3次元組織体は,再生医療だけでなく創薬研究における薬効評価試験への応用が期待される。
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2) |
細胞シート工学による血管網付き3次元心筋組織の構築
(竹原宏明・清水達也) |
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分子生物学や細胞生物学を中心とした血管形成に関する研究の進展により,血管を有した細胞組織の再構築が可能となりつつある。再構築した細胞組織への血管網の付与は,細胞への高効率な酸素・栄養供給を実現し,細胞の3次元組織化における従来のサイズ限界を打破するものと期待される。本稿では,現在世界中で活発な研究が進められている細胞組織への血管網の形成技術に着目し,日本の独自技術である細胞シート工学を基盤技術とした血管網付き3次元再生心筋組織の構築に関する最新の研究成果を交えて,研究開発の現状を紹介する。
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3) |
滑膜細胞との共培養法により作製した軟骨細胞シートの特性評価
(小久保舞美・佐藤正人) |
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われわれは,温度応答性培養皿UpCell® を使用して,接着性を有し人工物を一切含まない軟骨細胞シートによる損傷軟骨の治療を検討している。臨床応用に向け,より短期間で軟骨細胞シートを作製することが必要とされるが,現在の培養方法では組織作製までに4〜5週間を必要とした。そこで,生体内の軟骨組織の環境を in vitro で疑似した滑膜細胞との共培養法を用いて,より短期間でのシート作製を検討した結果,従来の方法と比べP0では平均12.0日,P1では平均10.2日,P2では平均9.2日短い期間で軟骨細胞シートの積層化が可能となり,積層化軟骨細胞シートの特性も優れていた。
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1) |
表皮真皮3次元組織
(森本尚樹) |
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足場材料に表皮細胞,線維芽細胞を播種し,3次元構造をもつ培養皮膚を作製する方法は既に確立されているが,皮膚再生分野で,本邦で製品化されているものは自家培養表皮(JACE®)しかない。実際に臨床使用するには,動物由来成分を用いない培養法が必要である。筆者は真皮再生を目的として,動物由来成分を用いずに自己血清を用いて培養した自家線維芽細胞を人工真皮に播種した自家培養真皮の臨床試験を実施したが,先進医療化はできなかった。今後,培養皮膚を一般医療とするにはより高品質・低コストの培養法が求められると考えている。
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2) |
3次元皮膚代替物の作製
(加王文祥・門松香一) |
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ヒト皮膚代替物(human skin equivalents)は,ヒト皮膚由来細胞を体外において培養,増殖したのち3次元構成して作製するが,培養表皮,培養真皮,培養皮膚がある。培養表皮はケラチノサイトが重層化して構成され,ほとんど細胞外基質がない。培養真皮はフィブロブラストと細胞外基質に相当する担体と混合して培養,増殖させて作製する。培養皮膚は培養真皮の上にケラチノサイトを播種して表皮層を作製し,2層構造とする。すなわち,培養皮膚を作製することは複数の細胞成分による異なった組織構造をもつ複合組織を作製することになる。
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3) |
3次元腺構造の作製
(松本卓也) |
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唾液腺組織を含む多くの腺組織は,発生段階において上皮組織および間葉組織の相互作用の結果,分岐形態形成と呼ばれる特徴的な形態変化を示す。in vitro での3次元腺構造構築にあたり,この形態の再現は重要な課題である。われわれは生体親和性の高い材料をもとに,組織形態形成に適した細胞周囲環境を整備することで,この組織形態の再現・制御を試みている。
本稿では,特に顎下腺組織に着目し,その形態形成制御と in vitro での3次元腺組織構築に向けたわれわれのアプローチを概説する。
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4) |
機能的な器官再生
(辻 孝) |
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再生医療の大きな目標として,疾患や傷害,加齢によって機能不全に陥った器官を,幹細胞から再生器官により置換する 「器官再生医療」 の実現が期待されている。立体的な器官再生では,3次元的な細胞操作技術による組織化や,細胞の足場となる担体,生体外における立体的な培養技術など様々な技術開発が必要である。私達は,胎児期に誘導される器官原基を再生して移植することにより,器官発生の再現により器官再生するコンセプトを実証し,器官再生の先駆けとして期待されている。本稿では,器官原基からアプローチした器官再生の進展と今後の課題,器官再生における3次元の細胞の組織化について考察したい。
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8. |
磁力を用いた細胞3次元組織化
(井藤 彰) |
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磁力を用いた細胞操作の最大の利点は 「遠隔操作」 である。標的細胞を磁性ナノ粒子で磁気標識することで,外部からの磁力で細胞の物理的操作および細胞機能の操作が可能となる。筆者らは,機能性磁性ナノ粒子を開発し,ティッシュエンジニアリングの各プロセスへの応用を行うことで磁力を用いたティッシュエンジニアリング技術 「Mag-TE (magnetic force-based tissue engineering) 法」 を開発してきた。本稿では,特に磁力を用いた細胞のパターニング法と3次元組織の構築法について述べる。
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1. |
生体シグナル因子固定化
(山本雅哉・田畑泰彦) |
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生体シグナル因子は,タンパク質,遺伝子,脂質など,細胞機能を調節する物質である。本来,生体内で固相化されている生体シグナル因子を幹細胞の培養に利用するためには,生体内を模倣した培養基材への固定化が必要である。生体シグナル因子の固定化において最も重要な点は,その生物活性を損なうことなく固定化することである。生体シグナル因子の固定化は,共有結合を介した方法と非共有結合を介した方法とに大別することができる。それらの方法の中で,特異的な相互作用を利用した配向固定化が生体シグナル因子の生物活性を増強できることがわかった。
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1) |
小スケール培養装置
(石川陽一) |
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浮遊撹拌培養は細胞を高密度・大量に増幅培養するのに必須である。培養の目的は細胞の取得だけでなく,培養条件の検討,分化誘導条件の検対など多岐にわたる。目的に合わせて装置をカスタマイズする必要があるが,本稿では再生医療や細胞治療を想定して,ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞を小スケールで浮遊撹伴培養するための装置の工夫を記した。
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2) |
酸素供給に基礎を置いた3次元組織設計構築
(酒井康行・篠原満利恵・小森喜久夫・藤井輝夫) |
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酸素は培養下における細胞の生存性を確保するばかりでなく,高度な自己組織化能の発現にとって必須であるが,培養液への低溶解性から培養条件下ではしばしばその供給が大きな問題となる。現状では,灌流可能な血管網の培養下での配備が困難であることから,酸素の拡散と消費で決まる厚みまでシート状の組織を構築・移植することが現実的である。本稿では,静置培養における培養液層内の酸素拡散律速の問題を抜本的に解決する高酸素透過性膜を底面とする培養方法について,重層化組織と細胞凝集体形成への応用を例として述べる。
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3) |
軟骨組織培養のための静水圧負荷技術
(牛田多加志) |
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軟骨組織は,軟骨細胞とコラーゲンやプロテオグリカンなどのマトリクスで構成されている。股関節の関節軟骨には3〜4MPa程度の静水圧が負荷されており,この静水圧負荷が軟骨組織の機能維持に関わっていることが知られている。生理的な静水圧である5MPa,0.5Hzの変動静水圧を,培養液中の溶存ガス濃度を制御しながら負荷することのできる組織培養システムを用いて脱分化軟骨細胞を培養することにより,軟骨細胞の再分化および組織形成を促進することが可能である。
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4) |
流れ刺激
(佐藤正明) |
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ティッシュエンジニアリングにおいて,細胞の3次元配置は重要かつ喫緊の課題である。この目的に対してはいくつかのアプローチが想定されるが,細胞の活性化や分化誘導の視点から,力,電磁波,光などの物理刺激が注目されている。なかでも,生体内において多くの細胞は血液や組織液などの液体に絶えずさらされており,流れに伴う剪断応力は細胞の機能発現や活性化にとって大変に重要な因子の1つである。流れの影響を実験において定量的に評価するため,いろいろな負荷装置がこれまで開発されてきている。代表的な装置の原理とその特徴などを概説している。
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3. |
上皮 - 間葉細胞相互作用の構築と器官再生
(坂野深香・大津圭史・藤原尚樹・原田英光) |
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器官は,上皮組織と間葉組織という異なる胚葉由来の間の様々なシグナルの交換によって,相互の細胞の生と死,増殖と分化をコントロールしながら形成されていく。したがって,器官再生もまた上皮系と間葉系の細胞がシグナルの受け渡しを可能とする相互作用の環境が必要となる。歯は,上皮−間葉相互作用のモデルとして永年研究されている。ここでは歯の再生に向けた上皮−間葉相互作用の環境構築について,iPS細胞の分化誘導技術を交えながら述べる。
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1) |
培養組織内における不均一細胞特性解析
(紀ノ岡正博) |
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空間的かつ質的な不均一性を有する培養組織に対する培養特性の評価手法を紹介する。細胞核をターゲットにした蛍光イメージングと共焦点レーザー走査型顕微鏡による立体的観察,さらに画像処理,データ解析により定量的解析を試み,培養表皮シートを構成する個々の細胞を標識・認識し,細胞群の中から基底層の領域を規定することで,基底層と基底上層の各区分における細胞数や増殖能力を定量的に解析した例を紹介する。本手法は,3次元組織内の細胞密度などを定量的に評価でき,足場を用いた培養組織や細胞シートなど従来は評価が困難であった培養組織の品質管理に対し貢献できるものと考えられる。
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2) |
多細胞のダイナミクスに基づいた3次元組織形成シミュレーション
(奥田 覚・井上康博・安達泰治) |
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3次元組織の形成には立体的に配置された細胞間の相互作用が重要であり,特に細胞活動などによる力学的な作用が支配的である。このような3次元組織の形成過程における多細胞のダイナミクスを予測する手法として,バーテックスモデルを用いた力学シミュレーションが注目されている。この数理モデルは,細胞の増殖による能動的な変形,力学特性や接着性の変化など,細胞活動による力学的な作用を表現することが可能であり,これらの細胞活動が多細胞間の相互作用を介して組織レベルの形作りに及ぼす影響を予測することができる。このようなバーテックスモデルを用いた解析手法について解説する。
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3) |
細胞間相互作用による自発的な組織構造形成 - 3次元構造の再構築に向けて
(三浦 岳) |
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幹細胞研究が盛んになって,特定の種類の細胞を分化誘導することは技術的に可能になってきた。それらの細胞をどのように配置して機能的な組織を作り出すかが次世代の再生医工学の課題になると予想される。これまでは,組織構造の形成は工学的な工夫によって行うという考え方が主流だったが,生物が発生段階で用いるやり方をきちんと理解すれば,それを応用して3次元構造を制御して作り出すことが可能になるはずである。本稿では,細胞間相互作用による形作りの様々な仕組みに関して実例を挙げて説明し,将来的な応用について概観する。
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5. |
ライブイメージング
(水野紘樹・菊田順一・石井 優) |
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ライブイメージングとは,観察する組織・臓器を生かしたままの状態で,その中で活動する細胞・分子の生きた動きを可視化して解析する研究手法である。ライブイメージングを活用することによって,細胞の 「形態情報」 だけでなく,時間軸をもった 「動態情報」 を解析することができる。近年,新しい蛍光タンパク質や蛍光プローブの開発,顕微鏡・レーザー技術の飛躍的向上などにより,蛍光イメージング技術が急速に進歩し,細胞の3次元解析が可能となった。本稿では,ライブイメージングに必要な材料・機器・手技について概説する。
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