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内容目次 |
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●序文:基礎生物医学から創薬研究,再生医療応用までを通して
細胞周辺環境に注目してみよう (田畑泰彦) |
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●序章:細胞周辺環境の重要性 -序論にかえて (田畑泰彦) |
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●第1章 細胞周辺環境のための材料科学技術 |
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1) |
合成高分子(生体非吸収性)
(明石 満・門脇功治) |
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これまでに様々な細胞周辺環境のための材料が開発され,医療分野へも応用されてきた。その中で,大量にまた安価に確保することができる合成系高分子の役割は極めて大きい。しかし現在,各種医療用材料として使用されている高分子材料の大部分は,工業用材料から転用されたものであり,タンパク質や細胞との相互作用を理解し分子設計されたものはまだ多くなく,医療用材料として用いることを目的にした材料を積極的に創製することが求められている。本稿では,これまでに開発されてきた合成高分子系の生体非吸収性材料をいくつか紹介し,歴史的な経緯や分子レベルでの理解についても概説する。
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2) |
合成高分子(生体吸収性)
(大矢裕一) |
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生体内で分解される高分子(生体内分解性高分子)の中でも分解物が生体内で代謝・排泄あるいは吸収されるものは 「生体吸収性高分子」 と呼ばれている。生体吸収性高分子は体内に投与・埋入されても,やがて消滅し残留・蓄積を生じないので,組織工学(再生医療)において生体が自己修復を行う間の一時的な足場材料や,スローリリースを目的とした薬剤の徐放担体として望まれる性質を多く有している。本稿では,生体吸収性を示す合成高分子を中心に,その合成方法や性質などを紹介する。
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3) |
天然高分子(タンパク質)
(木村 祐・田畑泰彦) |
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生体を構成する主要な成分の1 つがタンパク質であり,細胞においては,乾燥重量の約半分を占めている。化学的には種々のアミノ酸がペプチド結合(アミド結合)で連なるポリペプチドであるが,生体内では多様な機能を担っている。これらを材料として用いる,あるいはこれらの生物活性の制御を行うことは,細胞工学をはじめ生体組織工学や再生医療にとって非常に重要な意味をもつと考えられる。本稿では,タンパク質のもつ多様な機能とその臨床応用について概観する。加えて,細胞周辺環境構築に対するタンパク質の役割と今後の研究の方向性について述べる。
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4) |
糖鎖による軟骨細胞機能制御の可能性 - 軟骨に変性に伴うN-結合型糖鎖の変化より - (岩崎倫政・松橋智弥・瓜田 淳・高畑雅彦・三浪明男・西村紳一郎) |
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軟骨組織変性を基本病態とする変形性関節症の発症早期より N - 結合型糖鎖に変化が生じた。この変化は,本疾患の発症病因である軟骨細胞のアポトーシスや細胞外マトリクス分解酵素の分泌に関与していると考えられる。更なる研究により,糖鎖による軟骨細胞の機能制御や関節疾患への関与などが明らかになっていくものと考えられる。これらが明らかになると,糖鎖生物学および糖鎖工学的アプローチによる新たな治療法の開発や,再生医療用マテリアルの開発が可能になるであろう。
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2. |
セラミックス
(岡崎正之) |
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陶磁器のようなセラミックスの歴史は古いが,セラミックスがバイオマテリアルとして認知されるようになったのは比較的最近である。これまで主としてアルミナ,ジルコニアといった工業用セラミックスや焼結アパタイトが応用されてきた。ただ,骨や歯のような生体硬組織は無機アパタイトと有機コラーゲンからなり,その精巧な機能や構造を考えるとバイオミメティックな概念の導入が望まれる。幸いにも,最近の組織工学の急速な進歩により代謝性のアパタイト・コラーゲンスキャホールドに骨増殖因子や血管新生因子を修飾することにより硬組織の迅速再生が可能となってきた。
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3. |
金属
(塙 隆夫) |
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金属材料を扱うためには,その表面構造,組成,環境による変化,劣化について正しく知る必要がある。特に,表面酸化物の組成とその変化,タンパク質の吸着状態に影響を及ぼす表面酸化物の比誘電率,機能分子との結合点となる活性な表面水酸基の電離状態の知識は,細胞活性を促す表面の創出にも欠かせない。生物環境において,細胞が接触する環境での金属材料の表面で起こる現象を中心に,金属材料を正しく取り扱うために最低限必要な事項について説明する。
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4. |
複合材料
(山本雅哉・田畑泰彦) |
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これまでに,異なる性質をもつ数種類の材料を複合化することによって,単一材料では実現できない新しい機能をもつ複合材料が開発され,われわれの生活の中で多方面で利用されている。本稿では,人工の細胞周辺環境としての従来の足場材料がもつ力学的適合性の問題点を解決する方法として,複合材料の概念に基づいた足場材料のデザインについて概説する。
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5. |
インジェクタブル高分子
(下田麻子・秋吉一成) |
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近年,再生医療工学分野において,組織再生の足場材料として多くの注射投与可能な材料(インジェクタブル高分子材料)が開発されている。生体組織で細胞のほとんどは細胞外マトリクスに接着し,増殖・分化が制御されている。組織が欠損した場合,足場となる細胞外マトリクスも失われるため,再生誘導には仮の足場および細胞増殖に必要な生体シグナル因子の2 つが重要となる。生体シグナルは,時間的・空間的に巧みに制御され,組織の再生を円滑に進めている。本稿では,特に機能性高分子を用いた注射投与可能な足場材料の設計と機能について概説する。
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6. |
インジェクタブル低分子:スマートバイオマテリアルとしての超分子ハイドロゲル
(和田淳彦・濱地 格) |
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再生医工学や薬物送達システム,細胞培養などにおいてハイドロゲルは重要なバイオマテリアルである。その中で最近,「超分子ハイドロゲル」 という高分子ゲルとは異なる新しいバイオマテリアルが注目されつつある。超分子ハイドロゲルは,非共有結合性の弱い分子間相互作用で形成され,その最大の特徴は,「弱い分子間相互作用」 という欠点を 「柔軟さ」 という利点にしてしまう点である。このユニークな特徴をもつ超分子ハイドロゲルは従来の高分子ハイドロゲルの枠にとどまらず,医療・医薬の幅広い分野においてスマートなバイオマテリアルとして期待される。
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●第2章 細胞周辺環境のための材料加工・利用技術 |
1. |
材料表面修飾(化学的・生物的)
(岸田晶夫) |
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細胞が最初に材料を認識するのはその表面である。表面の機能を意図した材料開発は一般に困難であるため,適切な物理特性を有する材料表面を改質する方法論が一般的である。表面改質のためには,細胞と表面との相互作用を理解する必要がある。本稿では,材料が生体環境に置かれた場合に起こる種々のプロセスについて概説し,実際の表面改質について紹介する。表面改質については1980年代に詳細な検討が行われており,技術としては汎用化しているものが多いため,基礎的な技術に的を絞った。
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2. |
培養基盤表面のナノ・マイクロ加工技術による細胞の環境物性制御
(原田伊知郎) |
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生体内の細胞は細胞外マトリクスを認識して,それらに接着することで機能を十分に発揮していることが明らかにされている。しかし,細胞が認識しているのは単にそれらの分子種だけではなく,「種類」,「空間情報」,「物性」 を合わせて検出している。したがって,生体外環境における細胞の厳密な機能制御には,これらについて配慮しなくてはならない。本稿では,細胞がどのように外部環境の物性をも認識しているのか,またどのようにその認識力を引き出すことができるのかという最近の試みについて紹介する。
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3. |
細胞機能を制御する生体親和性ポリマー界面
(石原一彦・金野智浩・井上祐貴) |
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細胞機能を制御できるマテリアル表面技術として,人工細胞膜構造の構築を考え,リン脂質極性基を有するポリマー(MPC ポリマー)を駆使したリン脂質サーフェイステクノロジー(PCST)を開拓した。PCST 表面では生体環境においた場合でもタンパク質吸着を極限まで低減でき,結果として細胞活性を維持したまま細胞接着・増殖を抑制できる。これを基盤として利用することで,タンパク質医薬探索,あるいはES細胞やiPS細胞の研究を工学ベースにまで引き上げることが可能となる。
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4. |
細胞研究におけるマイクロデバイス の可能性
(小寺秀俊) |
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最近,細胞および分子の研究においても MEMS や microTAS といったマイクロデバイスが応用されている。これらのマイクロデバイスを利用することにより,これまで集団でしか扱うことが困難であった細胞および分子を,1 個または数個のオーダーから数千個・数万個のオーダーまで同時に扱うことが可能となり,今まで以上に高精度・高分解能で実験できることから大きな期待がかけられている。本稿では,MEMS の分野およびその機能を例示して示す。
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5. |
高分子多孔質スポンジ
(陳 国平・川添直輝) |
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高分子多孔質スポンジは,細胞の接着・増殖・分化などの機能を制御し,生体組織の再生を誘導する足場としての役割を果たしている。これまで,種々の多孔質スポンジが生体吸収性の合成高分子と天然高分子を用いて作製された。さらに,この2 種の高分子の特長を活かすため,両者を複合化する手法が考案され,力学強度,生体親和性ともに優れた複合多孔質スポンジや階層構造材料が開発された。また,効率よく細胞を播けるように設計された多孔質スポンジの作製,および再生医療への応用について述べる。
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6. |
配向連通多孔体
(末次 寧) |
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生体組織工学において足場材料の配向連通多孔構造が有利に働く状況について考察する。また,そのような微構造を構築するために,異方的に成長した氷などの結晶を気孔のテンプレートとして利用するユニークな手法を紹介し,その技術を用いて筆者らが開発したアパタイトセラミックスについて,特に骨組織用足場材料としての有効性を検討する。
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7. |
繊維
(松田晶二郎) |
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繊維は,細く,長く,強く,しなやかである。表面積が大きく,表面加工の影響を受けやすい。強度としなやかさを両立させるため,複数本を束ねて用いられる。また,特性の異なる素材の複合化により,新しい機能を創出できる。繊維単体だけでなく,編織布や不織布に加工されて使用される。医療用途では,高い安全性を備えた繊維製の縫合糸や人工血管が開発されている。特に再生医療材料として,生体吸収性高分子からなる繊維が組織再生の足場(scaffold)として使用される。細胞との接着性を高めるため,繊維径の制御,表面加工,素材の複合化などが行われる。
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8. |
インクジェット・バイオプリンティング
(中村真人) |
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われわれの体を構成する細胞は,「組織」,「臓器」という解剖学的に特殊な三次元の構造体・細胞集団を形成して,生体内に存在している。しかもこの構造体は,高度な生理機能を生み出すために意味のある構造であり,個々の細胞はこの組織構造の中で,周囲から影響を受けて挙動が制御され,また周囲へ作用を及ぼしている。されば,生体内での実際の細胞機能の本質に迫り,また高度な組織生理機能を再建するには,組織構造や細胞の分布構成という細胞周囲環境に目を向ける必要がある。三次元細胞周囲環境の再構築,生体に準じた細胞集団の作製をめざしたインクジェット・バイオプリンティング技術を紹介する。
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9. |
ロボット成型加工技術
(松田武久) |
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細胞外のミクロ環境では細胞外マトリクスが主要な材料であり,マクロな形態は骨格基材である。軟組織の再生技術の骨格基材の設計・加工技術の典型的な工程を示すと,骨格基材およびその成型加工技術,アクティブ・バイオマテリアルを組み込んだ表面加工技術,ロボット操作による表面形成,立体構造体形成,細胞と生体高分子の三次元配置,これらをアッセンブル化する技術に加えて,一定期間生体外であらかじめ生理的ストレスを負荷して機能組織の成熟度を高めて移植する技術が必要である。材料加工は組織作製の初期の工程を担い,形成される組織の質を決定する重要な因子である。細胞機能変換,細胞形態制御から組織の微細構造形成,組織の形造りまで,微視的から巨視的レベルまで細胞外環境整備と形態形成・機能発現技術を可能にするこれらの技術のシステム統合化が必要である。バイオマテリアルの成型・加工技術および骨格基材は汎用の工業技術でできるものも多いが,目的あるいは対象臓器・組織に合わせて 「テーラーメイド」 の加工技術を工夫して開発することが必要であり,本稿で筆者らの実験例を紹介する。
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10. |
ハイドロゲル
(宮田隆志) |
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ハイドロゲルは非常にユニークな性質を有しており,細胞を制御するためのバイオマテリアルとして期待されている。このようなハイドロゲルの性能や機能は,その物理的および化学的構造に強く依存し,現在では分子構造からマクロ構造に至るまで様々な構造設計が試みられている。本稿では,ハイドロゲルの合成と構造に関する基礎から最先端技術までを概説し,さらに細胞培養やDDS などの細胞周辺環境を制御するためのバイオマテリアルとして応用された研究例を紹介する。
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11. |
マイクロキャリア
(黒川祐人・川端慎吾・佐藤成大) |
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マイクロキャリア培養は,接着依存性細胞を大量培養することができ,主にワクチン生産に使用されている。マイクロキャリア培養を効率よく行うためには,マイクロキャリア自体の基本特性である表面特性,光学特性,粒子径および比重が重要であり,それらの物性値を至適にする必要がある。また,マイクロキャリア培養の無血清化へのアプローチとしては,マイクロキャリア表面に細胞接着因子を使用することが挙げられ,ワクチン生産用細胞である
Vero 細胞や MDCK 細胞で効果が確認されている。
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12. |
隔離膜
(金子 正) |
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近年,再生医療の研究が盛んであるが,組織再生を目的とした医療材料の製品はまだ限られている。歯科において隔離膜を使用した歯周組織の再生は1970 年代に研究が始まり,歯周疾患治療のための外科手術の1 つとして臨床応用されるに至っている。隔離膜は成長の速い組織と遅い組織を分割することで欠損部の治癒を制御するものである。隔離膜は組織再生材料として開発されたが,細胞との組み合わせにより組織工学用足場材料や移植用支持体としての可能性も期待される。
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13. |
ナノファイバー
(宇山 浩) |
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ナノサイズのファイバー作製法として注目されている電界紡糸を概説する。簡便な装置で既存のファイバー化技術では対応できないバイオポリマーなどの材料も紡糸することができ,単独紡糸できない材料でも容易に複合ファイバー化が可能である。得られるファイバー不織布はナノスケールの材料特性を活かすことで,細胞足場材料をはじめとして様々なバイオマテリアルに応用されており,ナノテクノロジー分野の次世代の機能材料として期待される。
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14. |
医療に貢献するナノバイオ技術
(岡本行広・加地範匡・渡慶次 学・馬場嘉信) |
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大きさや形状を厳密に制御した様々なナノ構造体の作製が可能となっており,近年これを生体試料へ適用する試みが行われている。なかでもナノピラー構造体を用いてDNA あるいは細胞の分離,細胞培養を行うと従来法をしのぐ性能を得ることが可能である。
一方,ナノ材料の中でナノファイバーは生体試料の高性能分離媒体として利用可能であり,量子ドットは微量な生体試料の高感度検出試薬に加えて,癌細胞のみにアポトーシス誘起可能な治療材料としての利用も期待される。このようにナノテクノロジーを用いて細胞あるいは分子周辺環境を適切に整備すると,従来では見受けられない現象が観測されるとともに,従来法をしのぐ機能を生み出し,医療への多大な貢献が期待される。
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15. |
傾斜機能化技術
(山本雅哉・田畑泰彦) |
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本稿では,細胞周辺環境の1 つとして,生体シグナル因子の固定化量が三次元傾斜的に変化した足場材料について概説する。生体組織では,骨- 軟骨界面,骨- 軟組織結合部など,その構造が傾斜的に変化している場合が少なくない。特に,個体発生において細胞増殖因子の濃度傾斜は,幹細胞の増殖分化と引き続き誘導される形態形成に対して重要な役割をもつ。このようなメカニズムで形成される生体組織を幹細胞から再生誘導するためには,幹細胞の増殖分化を傾斜的にコントロールすることができる足場材料の設計が必要不可欠である。本稿では,アルギン酸スポンジなど既存の足場材料に対して,生体シグナル因子を傾斜機能化する技術について,われわれの研究成果を中心に述べる。
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16. |
多孔質セラミックス
(赤澤敏之・村田 勝) |
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焼成・部分溶解析出法により生体模倣傾斜機能アパタイト( fg-HAp/ rhBMP-2)セラミックスを開発した。ラット背部皮下へ埋入4 週後では,fg-HAp は,組織体液や血液が浸透し,崩壊吸収,新生骨に被覆化され,骨リモデリングを伴う骨誘導により約70%が骨に置換された。fg-HAp のrhBMP-2 徐放性では,骨再生に重要な7 日後までrhBMP-2 保持率は徐々に減少し約60% を保持した。ラット頭部皮下骨膜上へ埋入4 週後では,骨膜は恒常性組織境界膜の役割を果たし,軟組織を介在した硬組織誘導が観察され,再生医療用多孔質セラミックスへの応用性が示唆された。
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17. |
多孔質金属
(中野貴由・石本卓也) |
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生体骨をはじめとする自然界の創造物の多くは気孔を含む多孔質体である。金属材料についていえば,多孔質化は軽量化や低弾性率化につながり,細胞の足場として時として最適環境空間を与える。本稿では,近年著しく技術進展している多孔質金属の製造法やその特徴,生体組織や細胞との関わりについて解説する。多孔質体を構成する気孔のサイズや形態の分布,気孔配列の等方性・異方性は,生体組織の形成にとって重要な支配因子となる。多孔質金属の主たる適用先は生体骨であるが,骨が本来もつ微細構造の異方性と気孔形状や配列の異方性とのマッチングは早期の骨形成・侵入を可能とする。最適な細胞周囲環境を与えるための金属材料の近未来の多孔質化手法として,電子ビーム光造形技術による任意の気孔制御の可能性を合わせて紹介する。
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●第3章 細胞周辺環境のための生物医学 |
1. |
細胞外マトリクス(コラーゲン)
(伊藤周平・浅野仁美・水野一乗・安達栄治郎) |
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海綿動物はホメオボックス遺伝子,TGB-β遺伝子など分化・発生に関わる遺伝子群がすでに存在していることから,多細胞動物の起源としてすでにコラーゲンをもっていたと考えられている。哺乳類では28 の分子種が発見され,その多様性が明らかになっている。遺伝子の多様性だけでなく,コラーゲンは異なる分子種が会合して細線維や基底板を構成することにより,さらに多様な細胞周囲環境を提供している。組織再生の足場材料として様々なコラーゲンとその会合体を制御できれば,種々の細胞と組み合わせることにより多彩な組織を再構成できる。
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2. |
ヒアルロン酸リッチマトリクス
(卓 麗聖・木全弘治) |
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ヒアルロン酸リッチマトリクスは,ヒアルロン酸,ヒアルロン酸結合性タンパク質やプロテオグリカン,細胞表面にあるヒアルロン酸受容体からなり,代謝速度が速く,細胞動態の変化に応じてダイナミックに変化する。ヒアルロン酸に結合するこれらの成分は,マトリクス構造の形成のみならず,ヒアルロン酸の機能発現にも重要である。特にヒアルロン酸に特徴的に共有結合するタンパク質,SHAP は複数の炎症モデルにおいてその機能的重要性が示された。幹細胞ニッチにおいて,ヒアルロン酸が構成要素の1 つであることが確立されたが,まだ不明な部分が多く,ヒアルロン酸リッチマトリクスの全体的な観点からの研究が必要であろう。
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3. |
基底膜
(保住建太郎・野水基義) |
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基底膜は薄い膜状の細胞外マトリクスで,上皮や内皮組織の直下,筋細胞や脂肪細胞あるいは血管内皮細胞の周囲など,ほとんどの組織に存在している。基底膜は構造支持のみならず,発生期の器官形成,血管新生や創傷治癒,さらには癌の転移浸潤などにも深く関与していることが明らかになりつつある。本稿では,各基底膜分子の特徴を述べるとともに,基底膜の主役的存在であるラミニンの機能を合成ペプチドを用いて分子解剖し,さらに再構築することにより 「人工基底膜」 の創製をめざした筆者らの最近の取り組みについて紹介する。
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4. |
matricellular タンパク質
(今中-吉田恭子・吉田利通) |
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matricellular タンパク質とは,細胞外マトリクス分子のうち,thrombospondin-1,-2,SPARC,テネイシンC,テネイシンX,CCN ファミリー,galectin,periostin のように,線維や基底膜のような構造物を作らず,細胞機能に強い影響を与えるものを指す。発生期の形態形成,組織修復や再生に伴って高いレベルで発現し,細胞の接着を緩め,また他のマトリクス分子,成長因子,サイトカイン,プロテイナーゼなどと結合してその機能を調節し,組織構築の改変を制御する。
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5. |
細胞外マトリクス産生
(石田義人・永田和宏) |
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細胞外マトリクスは,組織や器官の維持に寄与している足場タンパク質複合体であり,その細胞内での産生は厳密な制御を受けている。特に小胞体内におけるアミノ酸残基修飾やゴルジ体以降の輸送システムにおいて大部分の球状タンパク質には見られない特徴をもっている。生体内で合成される全タンパク質の30%程度を占める細胞外マトリクス産生のために,コラーゲン特異的分子シャペロンの存在をはじめとする様々な機構が細胞には備わっている。
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6. |
細胞外マトリクスリモデリング
(大久保 匡・岡田保典) |
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MMP およびその近縁遺伝子ファミリーの ADAMTS が,ECM 分解の中心的役割を担うことがすでに明らかとなっており,現在までにそれぞれの分子の構造・基質特異性・阻害因子に関する研究成果が蓄積されてきた。ECM リモデリングにはこれら酵素による直接的な ECM 分解に加えて,ECM に沈着したサイトカイン・増殖因子の代謝やそれによって生じる細胞反応が関わっている。今後の再生医療の実践には ECM のリモデリングの知見が重要である。
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7. |
グリコサミノグリカン - 生体シグナル分子相互作用 (水本秀二・山田修平・菅原一幸) |
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グリコサミノグリカン (GAG) 多糖鎖は細胞外で種々のタンパク質と相互作用することにより,細胞外マトリクスの構築や細胞内部へのシグナル伝達などに寄与することが明らかとなってきた。さらに,GAG を構成する硫酸化二糖単位の配列の違いによって種々の機能ドメインが形成され,相互作用するタンパク質の機能を調節することによって多様な生理機能が発揮される。本稿では,GAGの構造- 活性相関と,GAG に関与するシグナル分子の研究を中心に紹介し,GAG の硫酸化修飾構造の変化による個体発生への影響および疾患について概説する。
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8. |
細胞増殖因子
(中山瑞穂・松本邦夫) |
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細胞の増殖・分化,細胞運動,形態形成といった様々なプロセスは細胞増殖因子と呼ばれる一群のタンパク質により制御されている。細胞増殖因子は生体内にごく微量存在し液性因子として作用する一方で,細胞外マトリクスにアンカーされることにより遠隔あるいは近接する細胞間コミュニケーションを担う。器官の発生や再生におけるダイナミックな組織構築・再構築は増殖因子の時間的・空間的な作用に依存している。したがって,増殖因子を外因的に補うことにより再生・治癒力を高めることが疾病の治療につながることが明らかにされ,いくつかの増殖因子の臨床応用はすでに実用化段階にある。
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9. |
ケモカイン
(長澤丘司) |
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ケモカインとは,4 つのシステイン残基の位置が保存された構造の類似性から定義された比較的低分子のサイトカインの総称で,受容体は7
回膜貫通Gタンパク質結合型(GPCR)である。近年の研究で,ケモカインのメンバーは,造血幹細胞のホーミングや維持,免疫担当細胞の産生,心血管形成,神経形成,リンパ節の形成,成熟リンパ球の監視のための巡回,免疫反応における成熟リンパ球の移動・定着,エイズなどのウイルス感染,炎症巣の形成,動脈硬化症など,生体の様々な生理的・病理的プロセスに必須の役割を担うことが明らかになってきた。組織再生における幹細胞や前駆細胞の局所への移動・定着への関与も報告され,さらに近い将来,ケモカインの機能制御が臨床応用される可能性がある。
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10. |
細胞接着因子(フィブロネクチン,ビトロネクチン)
(林 正男) |
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フィブロネクチンとビトロネクチンは血漿中(および組織中)の糖タンパク質で,細胞接着で有名なRGD(Arg-Gly-Asp)配列をもち,インテグリンに結合し,細胞接着を仲介する。また,コラーゲンやヘパリンなどの細胞外マトリクス分子と結合し,独特の細胞周辺環境を形成する。細胞だって,自分の臭いが染みついた持ち物,好きなキャラクターグッズに囲まれたほうが快適だ。そういう快適な細胞環境を提供する分子で,細胞接着伸展,細胞移動,組織構築,組織維持,創傷治癒,血液凝固調節,免疫補体機能調節などの生理機能がある。
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11. |
インテグリン
(高木淳一) |
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インテグリンは主要なマトリクス受容体として,細胞が周りの環境を感知して応答し,逆にマトリクスの組織化を通して周辺環境を再構築する際に重要な役割を果たしている。このことにより,幹細胞がニッチを認識する際の最も重要な受容体の候補であると言える。様々なインテグリンが多様な細胞外リガンドを認識するが,その認識の様式はすべて二価金属イオンを介した共通のものである。インテグリンを介したシグナル伝達には,focal adhesion と呼ばれる多数の分子を含む集積体が必要であり,この構造が接着という物理的・構造的側面と,シグナル伝達という化学的側面を統合する。
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12. |
糖鎖認識レセプターによる糖鎖シグナルの制御
(野中元裕・Ma Bruce Yong・川嵜敏祐) |
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細胞表面や細胞周辺環境のタンパク質のほとんどすべてが糖鎖による修飾を受けている。生体内には,これらの糖鎖に内在する生体情報 「糖鎖シグナル」 を解読する仕組みとして動物レクチンと呼ばれる糖鎖認識レセプターが存在する。動物レクチンは様々な組織・細胞に発現しており,その働きは生体防御からタンパク質の品質管理まで多様である。本稿では,代表的なレクチンについて最近の研究動向を紹介する。
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13. |
幹細胞ニッチ
(澤本和延) |
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ニッチとは幹細胞を維持し,その分化をコントロールする微小環境のことである。近年の研究によって,様々な組織のニッチの実体が少しずつ解明され,その構成成分が明らかになってきた。ニッチには,幹細胞をサポートする支持細胞と血管,分泌性のシグナル分子および細胞外マトリクスなどが存在している。これまでの再生医療研究は幹細胞そのものを対象とするものが多かったが,効率よい再生のためにはニッチを操作することも重要である。ニッチの分子的実体を理解し,それを操作できるようになれば,様々な疾患の治療に応用できる可能性がある。
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14. |
分化転換
(谷口英樹・上野康晴) |
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器官発生において重要な役割を果たしている分化転換(trans-differentiation)が,成体における再生機構としても機能していることが明らかになりつつある。クロマチンリモデリング機構の解明などから,分化転換の分子メカニズムに関する理解も深まっている。今後,成体組織における再生現象を明らかにしていくうえで,分化転換は1 つの重要な視点となるものと思われる。
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15. |
上皮 - 間葉系転移
(太田 将・山田 源) |
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上皮 - 間葉系転移(EMT)は上皮細胞が間葉細胞へと形態を変化させるイベントである。EMT は発生・再生現象の重要な素過程であり,近年,癌細胞の浸潤・転移にも関与することが報告されている。細胞形態の維持には,基底膜などの細胞外マトリクス(ECM)が作り出している細胞周辺環境が影響を与えているとされ,基底膜の分解は上皮細胞から間葉細胞への転換を誘引する。本稿では,EMT を制御している細胞- 細胞間接着やECM との相互作用などの分子メカニズムについて概説する。
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●第4章 細胞周辺環境のための生物医学-工学融合科学技術 |
1. |
増殖因子固定化
(櫻木 誠・伊藤嘉浩) |
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再生医療における細胞の利用や培養環境において増殖因子は重要な役割を担う。増殖因子の利用方法としては培地への添加が最も一般的だが,その他に,培養器材に固定し,固定化状態で細胞に作用させる方法がある。増殖因子は固定化された状態でも細胞膜の受容体に作用し,シグナルを伝える例が多数知られている。固定化によって増殖因子の細胞内への取り込みが阻害される結果,伝達されたシグナルへの変化もある。固定化法,作用機序,シグナルの変化について紹介する。
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2. |
生体シグナル因子徐放化
(山本雅哉・田畑泰彦) |
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細胞を利用することによって,生体組織の再生修復を誘導する治療(再生医療)では,再生修復に適した細胞周辺環境を構築することが必要不可欠である。本稿では,この細胞周辺環境を構築するための医工学技術として,生体シグナル因子のドラッグデリバリーシステム(DDS)について概説する。生体吸収性材料を用いた細胞増殖因子の徐放化,細胞増殖因子の徐放化技術を組み込んだ機能性足場材料,さらに傷害を受けた生体組織を再生修復に適した細胞周辺環境へと改変させるためのDDS 技術について,われわれの研究例を挙げながら紹介する。
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3. |
細胞内動態の制御を可能とする多機能性エンベロープ型ナノ構造体による遺伝子導入 (畠山浩人・原島秀吉) |
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遺伝子治療・核酸医薬において,体内動態,細胞内動態を厳密に制御可能な人工ベクターの開発は,それらを実現するテクノロジーとして究極的なゴールである。そこでわれわれは理想的な人工ベクターとして多機能性エンベロープ型ナノ構造体(MEND)を開発した。取り込み経路の選択,エンドソーム脱出促進や細胞環境に応答した活性化を可能とする機能素子を,トポロジーを考慮してMEND に搭載したところ,効率よく遺伝子導入が可能となった。そこで,MEND の開発について,細胞内動態の制御という観点からわれわれの研究を紹介する。
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4. |
細胞の遺伝子改変
(城 潤一郎・田畑泰彦) |
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細胞の生存率および状態を悪くすることなく細胞へ遺伝子を導入し,その生物機能を活性化および制御するための遺伝子改変技術は,細胞の生物医学研究とその1 つの応用である再生医療に必要な技術である。この技術領域の発展には,細胞,材料,および培養などの異なる研究分野の知識の融合が不可欠である。遺伝子導入とその発現のための材料技術は,細胞の状態・機能を制御することを目的とした細胞周辺環境技術である。本稿では,細胞の遺伝子改変に必要な材料,技術,方法論を概説するとともに,遺伝子改変細胞を用いた細胞移植治療および基礎細胞生物学研究への展開についての具体例を紹介する。
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5. |
細胞認識型キメラタンパク質の設計と新しい再生医療用マトリクスとしての応用
(東 宏治・長岡正人・萩原祐子・玉井俊行・竹村啓子・岳 暁珊・村上裕太・赤池敏宏) |
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ES 細胞やiPS 細胞,EG 細胞(embryonic germ cell)などの多能性をもつ幹細胞や,体細胞から分離した前駆細胞は新たな医療ツールとして期待は大きいが,未分化を維持するメカニズムや分化誘導法,さらにはiPS 細胞誘導時のリプログラミングのメカニズムなど未解明な部分が多い。そこでわれわれは,幹細胞や前駆細胞の未分化維持・分化誘導が可能な新たな細胞培養系を確立するため,様々な生理活性タンパク質を基盤上に固定化が可能なキメラタンパク質として作製し,細胞の足場であるマトリクスとして応用することで幹細胞や前駆細胞の増殖や分化の制御を試みた。
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6. |
細胞接着性ペプチド
(平野義明) |
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近年,細胞接着分子の活性部位やそれに関連する調節分子が分子生物学的手法によって明らかにされた。その結果,種々の細胞接着性タンパク質の細胞接着活性部位のアミノ酸配列が数多く明らかにされてきた。本稿では,フィブロネクチンやラミニンなどの代表的な細胞接着活性部位のアミノ酸配列について述べた。さらには,フィブロネクチンの細胞接着活性部位である
RGDS 配列を含んだ種々の分子を設計し,細胞環境をコントロールした最近の研究例についても記載した。
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7. |
2D/3D細胞マイクロチップ
(中澤浩二) |
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近年,DNA チップやプロテインチップに続く次世代バイオチップとして,「細胞チップ」 の開発が活発に取り組まれている。われわれは,微細加工技術と基板表面化学修飾技術を利用して,各種細胞の均一なスフェロイドを規則的に配列・固定化できる 「スフェロイドアレイ」,およびES 胚様体やニューロスフェアの大量形成,粒径制御,簡便操作を実現できる 「マイクロスフェアチップ」 の開発をしている。これらの細胞チップ技術は,再生医療研究,創薬・食品・環境分野,基礎研究などにおける有望な培養ツールとして期待できる。
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8. |
培養工程における増殖シミュレータ
(紀ノ岡正博・田谷正仁) |
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培養細胞・組織の生産プロセスにおける増殖シミュレータについて,再生医療領域における役割を工程設計・予測や品質管理の観点から紹介する。シミュレータを決定論モデルおよび確率論モデルで類別し,それぞれの特徴について述べる。さらに,単層培養時および三次元培養時におけるシミュレーションの具体的な設計を示し,培養中の細胞増殖経過,細胞株間や継代回数の変化に対する馴化時間の比較,細胞分布データを用いた空間的不均一性についての解析など,本シミュレータの展開を解説する。
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●第5章 細胞周辺環境のための培養技術 |
1. |
培養液
(古江-楠田美保) |
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ヒト胚性幹(ES)細胞や間葉系幹細胞などのヒト幹細胞は臨床用の移植ソースとしてだけでなく,分化細胞を用いての創薬や薬効・毒性評価などにも使用されると予想される。現在,ヒト幹細胞の多くがウシ血清や未知なる物質を含む動物由来成分を用いて培養されている。このような条件では,培養液にロット差が生じ,高品質のヒト幹細胞を安定して維持するのは難しい。添加因子の影響を正確に解析することも困難である。病原体混入の可能性もある。ヒト幹細胞を臨床に応用するためには,すべての組成が明らかにされた合成培地を用いて培養されるべきだろう。本稿では,ヒトES 細胞,iPS 細胞用培養条件の問題点と,いくつかの培養液を紹介する。
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2. |
動物細胞培養装置
(高木 睦) |
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動物細胞大量培養は医薬品生産の手段としてだけでなくハイブリッド型人工臓器や再生医療の実現のためにも欠かせない技術となっている。特に接着依存性細胞培養器としては,ローラーボトル,セルファクトリーTM,マイクロキャリア培養,中空糸膜モジュール培養器,ラジアルフローリアクターなどが従来からあるが,多孔性担体を用いた三次元共培養や多孔性膜を用いた隔膜共培養も再生医療用の培養には有効である。これらの培養器の運転管理に際しては,剪断力や溶存酸素濃度への配慮が不可欠である。移植用細胞の自動培養装置も重要な工学的課題である。
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3. |
物理刺激
(秋本崇之・牛田多加志) |
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生体には常に様々な物理刺激が負荷されており,それらの刺激に応答して生体機能が調節されていることや,生体組織の維持・再構築が行われていることが徐々に明らかになってきた。本稿では伸展刺激や静水圧刺激が細胞の機能や分化に与える影響について論じ,再生医工学における物理刺激の利用例を紹介する。再生医工学において,物理刺激負荷は培養細胞の分化コントロールの手段として,成長因子などの生化学的刺激および培養担体などの材料からの刺激に並んでティッシュエンジニアリングに適用されていくことが期待される。
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4. |
培養細胞に対する流れ刺激負荷
(坂元尚哉・佐藤正明) |
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流れ刺激に対する細胞の応答は主に血管内皮細胞を中心に調べられてきた。近年,さらに血管平滑筋細胞や線維芽細胞の機能,また幹細胞の分化に対しても流れ刺激は影響を与えることが明らかになっており,流れ刺激に対する細胞応答の研究の重要性はますます増している。本稿では,培養細胞に流れ刺激を負荷する装置として代表的に用いられている平行平板型流路,円管,円錐平板型装置および平行円盤型装置について流れ特性や装置の特徴を解説し,さらに血管内皮細胞を例として流れ刺激に対する細胞応答を述べる。。
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5. |
細胞シート工学のための温度応答性培養皿
(小林 純・岡野光夫) |
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不全,欠損組織・臓器の新たな治療方法として,近年再生医療が注目を集めている。そこで,組織工学 (tissue engineering) の技術を用いて細胞から三次元的組織を再構築し,治療に応用する研究が始まっている。筆者らは,温度応答性高分子を表面にグラフトした温度応答性培養皿を利用し,シート状の細胞を単層のまま,あるいは重層化させたりして三次元組織を構築し,再生治療を実現する細胞シート工学 (cell sheet engineering) を創出した。また,次世代の再生治療実現に向けて,新規基材やフォトリソグラフィなどの手法を駆使した第二世代温度応答性培養皿の開発にも取り組んでいる。
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6. |
フィーダーレイヤー
(阿久津英憲・梅澤明弘) |
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幹細胞を自在に扱うことが可能となることで,生命科学の基礎研究は大きく進展し,特にヒトES 細胞やiPS 細胞などの多能性幹細胞研究の進展による社会貢献は大きく期待されている。多能性幹細胞を樹立し,適切に培養維持するための培養環境ではフィーダーレイヤーが幹細胞の足場と培地の 「conditioning」 として重要な役割を果たし,安定的な増殖と未分化維持に機能する。本稿では,フィーダーレイヤーとしての概念から機能について解説し,ヒト多能性幹細胞培養に必要な性質と使用時の具体的な注意点を述べ,ヒト多能性幹細胞研究の発展に寄与したい。
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7. |
上皮 - 間葉細胞共培養とイメージング
(原田英光・藤原尚樹・大津圭史) |
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体の多くの臓器は,その発生過程で上皮組織と間葉組織という異なる胚葉由来の組織の間で,様々な細胞成長因子を分泌しながら,相互の細胞の生と死,増殖と分化を複雑にコントロールすることで形成されていく。臓器再生には,これらの細胞間相互作用の環境を詳細に調べ,いかにして人工的に再構築するかが鍵である。そこで,これらの相互作用に必要な細胞環境を研究するための培養系が重要となる。われわれは,上皮組織と間葉組織の細胞間でシグナル分子の受け渡しをイメージする実験系の構築に取り組んでいる。ここでは,歯の発生をモデルにして,エナメル上皮幹細胞と間葉系幹細胞を用いた様々な培養系とイメージングをご紹介する。
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●索引 |