出版にあたって

 本書の執筆を始めたきっかけは,毎年恒例となっている助産学科の学生を対象とした国家試験直前講義用の資料をもとに,簡単なテキストを作ろうと思ったことにあります。人類遺伝学を正式に学んだことのない学生を相手のガイドブックをめざしたのです。しかし原稿に向かうと,「あれも,これも」追加したくなり,原稿枚数が増えてしまいました。ゲノム科学は学問の世界の中でも最先端の領域です。本書は入門書とも言えない中途半端な内容であることを承知していますが,遺伝医療に携わるメディカルスタッフの皆様が,人間の遺伝学の面白さや奥の深さを感じていただければ幸いです。
千代豪昭

*本書で利用した図とコラムについて
 本書は図を中心に解説を進めています。利用した図はすべて私が遺伝カウンセラー養成課程の講義や看護教育,助産課程の教育で利用してきたオリジナルのものです。計算問題や解説については,現時点では十分な遺伝学教育を受けておられない医療従事者にとっては理解が難しい内容も混じっているかもしれません。その時は<理解を深めるために>と付記してありますので,挑戦してみて下さい。理解が深まり興味をもっていただければ幸いです。
 コラムでは,遺伝学や遺伝病と関連がある色々なエピソードを紹介しています。読者の皆さんが「遺伝好き」になっていただくことを目的にしています。「寝転がっても読める」副読本をめざしていますので,個々の解説の引用文献は省略しています。現代はネット情報を利用して簡単に自己学習できますので,読者の皆さんが自分で調べてみて下さい。さらに理解が深まり,興味が湧くと思います。また,家系図資料だけでなく,紹介した遺伝病にまつわる解説や体験談など,遺伝情報は究極の個人資料ですので複数の話をつなぎ合わせるなどの配慮をしています。しかし個々の出来事はすべて実際の話であることをお断りしておきます。