監訳者序文

 関係各位の多大なご尽力の下,ここに長年の懸案であった本書の翻訳を無事終えることに対して感謝の念に堪えない。
 近年,急速に普及・多様化している遺伝医療の現場において,それを支えるマンパワーの養成は急務である。我が国では2002年より臨床遺伝専門医認定制度が発足し,2005年からは認定遺伝カウンセラー制度がスタートしている。認定遺伝カウンセラー®とは,遺伝カウンセリングにおいて一定の実施修練を積んだ後に資格認定される専門職であり,全国20大学(2021年の時点)にある認定遺伝カウンセラー認定養成課程(修士)の修了とその後に行われる認定試験の合格が必要である。それぞれの大学院における認定遺伝カウンセラー養成カリキュラムは,認定遺伝カウンセラー制度委員会が設定した一般目標(GIO)および到達目標(SBO)の下で作成されており,認定された養成校であれば全国どこにおいても同様の教育を受けることが可能となっている。しかしながら,認定制度が発足してから15年が経過しても,なお遺伝カウンセリングに関する共通の日本語テキストとなるものは存在していない。
 本書(Second Edition) は,発刊が2009年とすでに12年が経過しているが,今でも多くの養成校において遺伝カウンセリングに関する基礎テキストとして用いられている。英書に慣れ親しむという意味では,このまま邦訳せずにいた方が良いという考え方もあるが,その一方で,多忙なカリキュラムの中で翻訳作業に多くの時間を費やすよりも,内容の検討に重点を置くべきとの意見もある。また本書の内容の一部には我が国の実情に合致しない記載もあり,これらの点についての解説も必要である。
 このような状況を鑑みて,本書の翻訳を手がけることになった。翻訳作業には全国の認定遺伝カウンセラー認定養成課程を持つ大学への分担邦訳および本邦の実情に合わせた解説へのご協力をお願いし,ここに完成した次第である。
 翻訳はできるだけ原書の雰囲気に沿った形にしたが,お気づきの点があればご指摘いただきたい。
 養成課程の学生・指導教官のみならず,すでに遺伝カウンセリングの現場でご活躍の方々にも通読いただければ幸いである。

2021年5月
日本語版監訳者 福島明宗