編集後記

 この度,通算56号の遺伝子医学を発行できる運びとなりました。
 本号の特集は,「重症新生児・新生児集中治療室におけるゲノム診断と遺伝カウンセリング」です。特集コーディネーターは岡山大学学術研究院医歯薬学域小児発達病因病態学分野教授の武内俊樹先生にお願いいたしました。近年,網羅的ゲノム解析技術の進歩により,重症新生児医療の現場においても,診断に至るまでの時間を短縮し,治療選択や管理方針の決定に資するゲノム診断の重要性が急速に高まっています。とくに新生児集中治療室では,生命予後や治療方針に関わる判断が限られた時間の中で求められることも多く,迅速かつ適切な診断は,患児のみならずご家族の意思決定支援においても大きな意味をもちます。一方で,新生児期のゲノム医療には,特有の課題も少なくありません。臨床像が十分に形成されていない段階でのバリアント解釈,予後予測の不確実性,二次的所見への対応,両親やきょうだいを含めた家族支援,さらには地域医療との連携など,診断技術の進歩だけでは解決できない多面的な課題が存在します。本特集では,ゲノム診断が新生児集中治療に与えたインパクト,新生児特有のバリアント解釈の課題,包括的家族支援と地域ネットワーク,遺伝カウンセリングとテレジェネティクス,先天代謝異常と治療,非典型例の診断と新疾患の確立,AI技術を活用した診断支援,さらには海外の動向と展望まで,第一線で活躍される先生方に幅広くご執筆いただきました。重症新生児医療におけるゲノム医療の現在地と,今後進むべき方向を考えるうえで,大変示唆に富む特集となったと感じております。
 特集以外では,「目で見てわかる遺伝病」消化器内科編の最終回として「若年性ポリポーシス症候群」を取り上げました。Research(ヒト遺伝子研究最新動向)では,「AIが拓く次世代ゲノム医療−ゲノム基盤モデルの技術革新と臨床応用」および「ゼブラフィッシュを用いた超短期間バリアント判定法の開発」をご執筆いただき,AIやモデル生物を活用した新しいゲノム医療の展開を学ぶことができます。Learningでは「脊髄性筋萎縮症」および 「GBA1遺伝子検査とゴーシェ病治療薬エリグルスタット」を取り上げ,疾患理解と遺伝子関連検査の臨床応用について理解を深める内容となりました。Methodでは「CAR-T細胞療法の最近の開発動向」を扱い,遺伝子改変技術と細胞療法の進歩を概観していただきました。「Genetic Counseling(実践に学ぶ遺伝カウンセリングのコツ)」では「20年後までを想像して遺伝学的検査の結果を扱っているか?」という,遺伝医療に携わる者にとって大変重要な問いを投げかけていただきました。「CGC Diary(私の遺伝カウンセリング日記)」では検査室から臨床現場への関わりについてご執筆いただき,遺伝医療を支える多職種連携の広がりを感じることができます。「Ties 絆(当事者会,支援団体の紹介)」では,ハーモニー・ライン(家族性大腸ポリポーシス患者と家族の会)様に,遺伝性疾患患者の声と差別・偏見のない共生社会の実現に向けた思いをご紹介いただきました。NEXUS(ヒト以外の遺伝子に関連する研究)では,ヒト遺伝性疾患モデルとしてのキイロショウジョウバエを取り上げていただきました。
 最後になりますが,本誌編集にご協力いただいた執筆者の先生方ならびに関係者の皆様に心より御礼申し上げるとともに,第57号以降もご指導賜りますよう,引き続きどうぞよろしくお願い申し上げます。

令和8年6月16日
編集幹事
北海道大学病院臨床遺伝子診療部
山田崇弘