編集後記

 2023年6月9日,第211回通常国会において,「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律」(ゲノム医療推進法)が可決成立致しました。この法律はゲノム情報による差別の禁止を含めた倫理的問題への配慮とゲノム情報を活用した医療の推進を両輪とした骨子となっているもので,今後のわが国の医療の発展に資するものであり,本法の成立は大変喜ばしいものと思います。
 本号の特集は,奈良県立医科大学脳神経内科教授 杉江和馬先生にコーディネーターをお願いし,「遺伝性筋疾患研究の進歩」とさせていただきました。従来,遺伝性筋疾患の多くはDuchenne型筋ジストロフィー(DMD)をはじめとして難治性疾患の代表的疾患群とされて参りましたが,昨今の研究の進歩によりDMDのエクソンスキッピング療法等が実用化されるなど,病態修飾療法が発展しつつあります。本号には,それぞれの遺伝性筋疾患の研究の進歩と,それらが示す明るい未来が語られていることでしょう。ゲノム医療推進法が成立し,遺伝性筋疾患においても適切な遺伝カウンセリングがなされつつ,早期診断・早期治療が円滑に推進される時代になることを期待するところです。
 特集以外の企画としましても,読み応えのある記事が満載です。早期診断と治療介入が重要であるFabry病は,最近では新生児マススクリーニングの対象にもなりつつあります。それと同時に遺伝カウンセリングの役割がますます大きくなっています。また,Birt-Hogg-Dube症候群についても詳細な解説がなされていますし,骨系統疾患の改訂国際分類や子宮内膜における体細胞変異のクローン性増殖,シングルセル遺伝子発現解析の現状と課題,ゲノムワイド解析における勝者の呪い,ブタモデルにおけるヒト遺伝性疾患のエピジェネティックなゆらぎの解析についての研究視点でのトピックスにも触れることができます。また,がんゲノム医療の分野からは二次的所見とActionabilityについての解説記事があります。現時点では二次的所見とActionabilityは主にがんゲノム医療領域のトピックスとなりがちですが,近い将来,このことは難病医療を含めた他領域でも重要な課題となることが予想されるものであり,今のうちから勉強しておくことをお薦め致します。認定遺伝カウンセラー®による連載記事「実践に学ぶ遺伝カウンセリングのコツ」,「私の遺伝カウンセリング日記」も遺伝カウンセリングの実践においてとても参考となることでしょう。「Ties絆(当事者会,支援団体の紹介)」はNPO法人表皮水疱症友の会の宮本恵子様に,この友の会についての紹介記事を書いていただきました。これからの治療法開発においては,当事者の皆様との連携が不可欠であることは言うまでもありません。
 このように,通算46号復刊21号も充実した誌面になりましたのも,執筆いただいた皆様のみならず,本誌編集に協力いただいた方々のご尽力の賜と思います。厚く御礼申し上げます。通算47号,復刊22号以降も,引き続きご指導ご協力いただきますよう,どうぞよろしくお願い申し上げます。

2023年8月28日
編集委員
北海道大学大学院医学研究院神経病態学講座神経内科学教授
北海道大学病院臨床遺伝子診療部顧問
矢部一郎