序文


 
プロポフォールは海外では早くから使用されて,高い評価を得ていた薬でありますが,わが国には可成遅れて導入されました.それほど,わが国における静脈麻酔薬に関する過去の興亡の歴史は,この静脈麻酔薬導入に当たっても慎重にならざるをえなかったのであろうと思われます.
 プロポフォールのわが国への導入に当たって,種々の慎重意見もありましたが,発売後その麻酔導入のスムーズさ,早さ,覚醒の壮快さなど,これまでにない特徴が,次第に使用頻度のシェアを拡げつつあります.
 1996年(平成8年)11月22日,第3回日本静脈麻酔Infusion Technology研究会が東京で開催された時には,未だ発売後1年を経ていなかったこともあり,シェアはあまり高くなかったのですが,施設によっては現在好んでプロポフォール麻酔が採用され,種々の工夫が加えられて適応拡大が行われています.
 第3回日本静脈麻酔Infusion Technology研究会に於いては,23題の一般発表,1題の教育講演の他に,国立国際医療センター麻酔科医長与五沢利夫先生司会による「本邦におけるプロポフォール麻酔の臨床適応」と題するパネルディスカッションと,当時米国の静脈麻酔学会の会長であったDr. Peter S. A. Glassによる「麻酔状態のモニター」と題する特別講演が行われました.
 本編はこのパネルディスカッションと特別講演の内容に,その後のプロポフォールの使用経験や,市販後の印象などを追加して,冊子としてまとめたものであります.
 与五沢利夫先生司会によるパネルディスカッションは,全国1,200の病院にアンケートを御願いした結果をもとに,開発に関係された方々のご意見を伺っており,Dr. Peter S. A. Glassの特別講演では日常行っている我々の麻酔状態,或いは麻酔深度のモニターが如何に難しいかについて触れられ,現在のところでは,バイスペクトラルインデックスがよい指標となることを述べられました.今後の麻酔状態のモニターの進歩とプロポフォールのわが国での正しい評価を期待したいと思います.
 この冊子が,プロポフォールの使用を計画している麻酔科医,使用を深めたいと考えておられる麻酔科専門医に少しでも役立てば幸いです.
広島大学名誉教授・中国労災病院長 盛生倫夫