神経難病のゲノム創薬・遺伝子治療薬開発

池田真理子
藤田医科大学病院 臨床遺伝科

 かつては「不治の病」といわれてきた神経難病に対する治療法開発の進歩は目覚ましいものがあります。遺伝子治療や病態を理解したうえでの分子標的療法やユニークな低分子治療法などが次々と開発され,実用化されています。なかには1歳まで生きることが不可能といわれてきた疾患でも,10年以上も予後が改善したことでむしろ早期発見・早期治療の重要性が増し,新生児スクリーニングが推奨されるようになった疾患もあります。医学の発展がまさにヒトの生活を大きく変える時代となりました。
 本特集号では,新進気鋭の,あるいは著名な先駆的研究成果で知られる神経難病領域では欠かすことのできない日本の医学研究者の皆様に原稿をお寄せいただきました。
 まずは本邦で世界に先駆けて発表されたユニークな筋強直性ジストロフィーの創薬開発(中森先生)について,またすでに実用化され,まさに神経難病に対する治療効果が医療現場で実感されているミトコンドリア病に対するタウリン療法(大澤・砂田先生)について。続いて本邦がその病態を突き止め,戦略的な開発で国際的にも大きなインパクトを与えたデュシェンヌ型筋ジストロフィーに対するエクソンスキッピング療法の開発(倉岡・青木先生),神経難病にとどまらず,幅広い疾患に対しても応用の可能性の高いユニークな核酸治療法で全世界的にも注目を浴びるヘテロ核酸を用いた難病に対する遺伝子治療薬開発(浅見・横田先生)。前述しましたが,神経難病の中で特に遺伝子治療・核酸治療,そして低分子治療のすべてが保険収載され,本邦では特にその実用化が円滑に行われ患者さんへの福音となった脊髄性筋萎縮症の最新治療と今後の課題(齋藤先生)と,ゴーシェ病という希少神経難病に対する大変ユニークなシャペロン療法の開発(成田先生)。また,本邦に特に多い小児期の神経難病である福山型筋ジストロフィーに対する画期的な新規治療法開発(徳岡・戸田先生),そして最後に本邦の遺伝子治療といえばこの先生を置いて語れない,先天性代謝異常症に対する最新の遺伝子治療(村松先生)について,ご寄稿いただきました。
 どの内容も示唆に富み,今後の研究の発展への希望に満ち溢れる内容です。日本の医学研究の更なる発展と,神経難病で苦しむ患者さんやご家族に一日も早くその研究成果が反映されることをお祈りし,巻頭のご挨拶に代えさせていただきます。