ゲノム医療におけるデータベース-使い方とコツ

井本逸勢
愛知県がんセンター研究所

 今回の特集のテーマで取り上げたのは,ゲノム医療の実践で役立つ「データベース」・「ウェブツール」である。
これまで研究空間にあった個人のゲノム解析であるが,近年急速に遺伝性疾患の難病領域とがんの領域で臨床実装が進んでいる。次世代シーケンサーなどを用いて網羅的にゲノム情報を取得し,その結果に基づいて治療法を選択する精密医療が臨床の現場で広がっている。ゲノム医療が一般診療化する中では,一部の専門家が行っていた結果の妥当性の評価や臨床的意義の解釈も,ゲノムの専門家でない医師やメディカルスタッフに必要なスキルとなってきている。
 ヒトゲノム研究の成果として大量のデータが生み出された結果,生命科学分野においては情報爆発の中でいかにデータベースやウェブツールを使いこなして効率的に研究するかが課題となり,ドライのみならずウェットの研究者にとってもこれらの活用のスキルが必要とされている。診療の場においては,研究で求められるレベルではなくても,一般集団におけるバリアントの頻度情報,遺伝性疾患の情報,バリアントと疾患,特に遺伝性疾患との関連の情報,がんの体細胞にみられるバリアントを評価する情報などが,どこにあって,どのように使うかという知識や技術をもつことは,臨床シーケンス解析で検出されるバリアントの臨床的意義を解釈し診療に活かすために最小限求められるスキルである。
 最近は,研究者だけでなく臨床医やメディカルスタッフを対象にした疾患・ゲノムデータに関するデータベース・ウェブツールの使用法を解説した日本語の単行本やウェブ上の動画マニュアルも登場しており,自習できる環境も充実してきている。しかし,初学者にとってはまだハードルが高いのも事実である。本特集では,最低限知っておくべきデータベース・ウェブツールに関して専門家に重要な点や使い方とそのコツなどポイントを解説していただいたので,全体を俯瞰するのに役立つことを期待している。自身の診療上必要と思われる項目に関しては,本特集で得た知識を足がかりにさらに他の参考書などで理解を深め,日々のゲノム医療の場で実際に活用していただくことを希望したい。