序文
最近，増殖分化能力の高い幹細胞ならびにその関連の生物医学研究の進歩はめざましい。この研究成果を活用する1つの出口として，再生治療に大きな期待が寄せられている。もし細胞の能力を高めることによって様々な組織と臓器が再生修復できるようになれば，新しい治療法が可能になるかもしれないということから，この期待は当然のことであると考えられる。この再生治療とそれを科学的に支える再生研究とからなる再生医療分野の発展には，細胞に関する基礎生物医学研究の進歩に加えて，材料技術の支援が必要となる。再生医療の基本概念は，細胞の増殖分化能力を促し自然治癒力を高めることである。これを実現するためには，細胞の能力を引き出す材料技術を活用することが不可欠である。
一般に体内では，細胞は3次元的に相互作用しながら，その能力を発揮していることが知られている。そこで現時点において，「細胞3次元組織化」（biofabrication
or organ printing）という言葉をキーワードとして，全体像をまとめてみることも大切ではないかと考えた。細胞の3次元組織化は，体内であるべき能力を細胞に発揮させるためにはキーであり，そのための技術は，細胞研究にも創薬研究にも再生治療にも必要不可欠となることは疑いない。再生治療とその周辺支援分野で，今後，重要となっていく細胞の3次元組織化について考えていただくための少しの助けにでもなればと思い，本書を企画した。細胞3次元組織化のための材料，加工材料技術，および培養技術，加えて細胞3次元組織化培養のための周辺技術など，できるかぎり広範囲をカバーし，現在の細胞3次元組織化研究分野を鳥瞰できるように努めた。
ここに執筆をお願いしているのは，細胞の3次元組織化に関連して重要になっていくであろう分野・領域でお仕事をされている第一線の先生方である。各章では，それぞれの分野・領域における現在の世界的研究動向，日本の位置づけ，執筆者の最新の研究成果やその関連事項，将来展望などについて簡潔に述べていただいた。本書が少しでも細胞の3次元組織化の重要性を考えていただく機会になれば幸いである。
最後になりましたが，本書の趣旨を理解し，貴重な時間を割いて執筆いただいた諸氏に心より感謝を申し上げるとともに，企画から出版に至るまでご尽力をいただいた株式会社メディカルドゥ社には心より感謝の意を表したい。
|
