はじめに(本書を読まれる方々へ)


 
 社会保障制度改革の一環として,第三次医療法改正,それに基づく「地域医療計画」の推進と同時に,介護保険制度が平成12年度から実施されようとしています.日本薬剤師会はもとより,各都道府県薬剤師会,また市町村等地域薬剤師会は介護保険制度への薬剤師の職能発揮のために鋭意組織活動に専念してきました.こうした活動が「社会資源」として多くの市民及び医療・福祉に携わる方々に認められるためには,「薬剤師自身」が各制度に精通し,現場で数々発生しうるであろう諸問題の解決の方法を理解しておかなければなりません.
 「医療保険」を受ける人,「介護保険」の適応を申請する人など,いろいろの場合が考えられます.しかも多くの場合,「医療」と「介護」が,ある人は「医療」,ある人は「介護」と分けられて存在するわけではありません.日本国民がすべて,健康な,健全な日常生活をまっとうするため,言い換えれば,全市民が「快適な日常生活を営むため」の保障とならなければなりません.
 「医薬分業」の歴史でさえ,日本の近代国家成立から諸先輩の並々ならぬ努力があって今日に至っています.1874年(明治7年),わが国に保健医療行政制度の基準・方向を定めたものとして「医制」が提出されました.全部で76条から成り,全体的には,医師と薬舗の制度確立をめざしたものといえるものです.その第41条「医師たるものは自ら薬を鬻ぐことを禁ず医師は処方書を病家に附与し相当の診察料を受くべし」〈略〉「二等医師は願により薬舗開業の仮免状を授け調薬を許す」〈略〉 第55条「調薬は薬舗主薬舗手代及び薬舗見習に非ざれば之を許さず,但薬舗見習は必ず薬舗主若くは手代の差図を受け其の目前にて調薬すべし」とあります.しかし,「医制」は衛生行政の方針は示しましたが,法的な規制力をもつものではありませんでした.又,当時,薬舗側にも医薬分業に対応できる条件は整っていませんでした.
 同様に,「保健・医療・福祉」の連携が提唱され,社会保障制度改革の流れの中で薬剤師の果たすべき役割がクローズアップされています.介護保険制度の実施を目の前にして,私たち薬剤師には在宅医療(チーム医療),在宅介護(チーム介護)への積極的なかかわりが求められているのです.にもかかわらず,一人薬剤師問題,店舗の構造的問題,あるいは経済的問題などにより「条件整備が整っていない!」という理由で立ち遅れてしまったらどうでしょうか.「医制」の二の舞になってしまうのではないでしょうか.
 何でもいい,「やれる事はなんでもやりましょう!」.そして,社会に行動を起こしていこうではありませんか.国民から「薬剤師」という負託を受けた私たち薬剤師は,その任務に応えなければなりません.本書がそのための一助となれば幸いです.

    1999年介護保険制度実施を目前にして

               
七海 朗