序文【小児編】

 本書は,遺伝子医学MOOK別冊 シリーズ「最新遺伝医学研究と遺伝カウンセリング」の中で,小児・周産期遺伝医学に焦点を当てて,臨床医,研究者,遺伝カウンセラーなどが担当して書かれたものである。小児医療や周産期医療の現状や課題について,医療関係者はもちろん,遺伝カウンセラーやそれらを学ぶ大学院生,学生などにも広く活用していただけるような内容構成を試みた。
 小児遺伝医学においては,多くの小児期の難病が遺伝性疾患であることから,早くから臨床遺伝学に関わる領域の診療や研究が行われてきた。染色体異常によって発症するDown症候群やTurner症候群をはじめ,先天異常症候群,多因子遺伝などの遺伝カウンセリングの一部が,日常診療で行われることも少なくない。本書ではまず,小児の遺伝カウンセリング,IRUD,多因子遺伝,先天異常症候群,エピジェネティクスといった話題と最新の遺伝学研究について解説していただいた。さらに各論として,片親性ダイソミー,染色体微細構造異常,遺伝子治療,ゲノム編集技術などの最新遺伝学の知識を紹介し,患者登録,新生児マススクリーニングといった課題について,さらに各疾患編として福山型筋ジストロフィー,Down症候群,Sotos症候群,副腎白質ジストロフィー,性分化異常症,ミトコンドリア病,神経線維腫症1型,脊髄筋委縮症1型,難治性てんかんなどの最新のトピックスをそれぞれの領域を代表する先生方に詳述していただいた。そして最後に,臨床遺伝カウンセラーの役割や,ゲノム情報とゲノムリテラシーといった社会的な課題について解説をお願いした。
 本書が提供する最新遺伝医学研究,遺伝カウンセリングの全体像を理解していただき,小児・周産期医療にかかわる医療関係者,遺伝カウンセラーや大学院生,学生などが抱える課題の解決に貢献できれば,望外の喜びである。


熊本大学大学院生命科学研究部 小児科学講座
中村公俊