第2章 生物学的応用編
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1. |
細胞内蛍光1分子イメージング (十川久美子・徳永万喜洋)
顕微鏡技術や蛍光プローブの開発などにより,分子1個1個を細胞内で鮮明に蛍光観察できるようになった。分子1個がイメージングできれば,細胞内の分子動態と分子数の定量が可能である。また,高感度の特性を生かせば,生きた細胞を長時間照射損傷なく観察できる。…… |
2. |
神経の分子イメージング 〜脊髄損傷を中心に〜 (辻 収彦・中村雅也・藤吉兼浩・岡田誠司・山田雅之・岡野James洋尚・岡野栄之・戸山芳昭)
近年の生物学的・分子生物学的技術の発達により,神経系研究においてトレーサーを用いた様々なtractgraphyが可能となった。しかし,その解析には依然として多くの動物の犠牲により得られる組織切片に頼らざるを得ない。本稿では,脊髄損傷研究に携わる当研究室において現在行っている(1)水分子の異方性に着目したdiffusion
tensor tractgraphy…… |
3.脳の分子イメージング |
1) |
エネルギー循環代謝 (井上 学・福山秀直)
エネルギー循環代謝の機能画像を撮影する方法として,SPECT(single photon
emission computed tomography)とPET(positron emission tomography)が,現在臨床で用いられている。ここでは,SPECTとPETの撮影方法に加えて,近年利用されるようになった統計学的画像解析法について説明した。…… |
2) |
神経血管カップリング (菅野 巌)
脳神経細胞を賦活すると神経の賦活強度に相応した局所脳血流量が増加することが,これまでのいろいろな実験で示されている。ここでは局所脳血流の変化量が神経活動の強度を反映するメカニズムについて,PETによる定量的な測定とLDFを用いたラットによる微小循環測定をもとに組み立てたい。これまでの測定からわかったことは,…… |
3) |
神経伝達機能イメージング (三好美智恵・高橋英彦・須原哲也)
positron emission tomography(ポジトロンCT:PET)を用いて脳機能の多種多様な生理・生化学的プロセスを画像化することが可能である。リガンドの選択によって,局所脳血流や酵素活性,神経伝達物質受容体分布など多様な生体機能をin vivo で定量化することができ,神経伝達機能をターゲットとしたイメージングは疾患病態の解明や治療薬の作用機序の解明に役立っている。…… |
4) |
アミロイドイメージング (岡村信行・谷内一彦)
アルツハイマー病に特徴的な脳病理変化である老人斑の脳内沈着が,分子イメージングプローブを用いて計測可能となった。これまでに,PIB,FDDNP,SB-13,BF-227などが,PETプローブとして臨床応用されている。アルツハイマー病患者では,老人斑の好発部位である大脳皮質領域で顕著なプローブの集積が検出される。…… |
4.心疾患の分子イメージング
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1) |
心筋エネルギー代謝 (石田良雄・木曽啓祐)
心臓病における心筋エネルギー代謝への注目は,代謝異常自身が直接の原因となる疾患が存在することとともに,原因にかかわらず心不全を進行させる重要な病態因子であることによる。本稿では,心筋代謝イメージング法として,(1)ATPなどの高エネルギーリン酸を計測する31P-MRS(核磁気共鳴スペクトル法,magnetic resonance spectroscopy)…… |
2) |
神経伝達・受容体機能解析 (玉木長良・久下裕司)
分子イメージングは循環器領域でも進められている。適切な放射性薬剤を用いることで神経伝達・受容体機能の映像化や定量評価が可能である。特に心不全では交感神経機能の異常が知られている。123I-標識MIBGを用いると交感神経機能異常とその程度を解析でき,心不全例の重症度判定に広く用いられている。…… |
3) |
冠動脈不安定プラーク (細川了平・野原隆司)
急性冠症候群は,近年の治療学の進歩にもかかわらず依然予後不良の疾患である。急性冠症候群の主因は,冠動脈プラークの破綻であるため,その予測には不安定プラークの同定が必要である。プラークの不安定化には,プラークのサイズよりも,その性状が関与する。したがって,冠動脈造影などの形態による画像診断法では,その同定は難しい。核医学は,分子イメージングの特色を有し,プラークの性状を画像化しうる手法とされている。…… |
5.腫瘍の分子イメージング
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1) |
糖・アミノ酸代謝 (窪田和雄・伊藤公輝)
悪性腫瘍における糖・アミノ酸代謝の亢進は古くから研究されている。C-11やF-18など陽電子放出核種で標識された糖・アミノ酸の代謝トレーサーとポジトロン断層(positron
emission tomography:PET)を用いて,癌の代謝画像診断が行われている。特に18Fフルオロデオキシグルコース(FDG)を用いるPET診断は,…… |
2) |
核酸代謝 (佐賀恒夫)
活発な細胞増殖は癌細胞の基本的な性質であり,PETによる腫瘍の増殖能評価は,悪性度診断,治療効果判定への応用が期待されている。核酸代謝プローブとして,これまでいくつかのチミジン誘導体が検討されてきたが,その中で広く検討されているのはFLT-PETで,その有用性が報告されつつある。…… |
3) |
低酸素イメージング (岡沢秀彦)
近年,分子イメージング的手法での腫瘍低酸素イメージングが注目されている。ある種の腫瘍細胞は低酸素状態でも低速増殖可能であり,放射線治療や化学療法といった一般的癌治療に感受性が低く,抵抗性を示すためである。こうした低酸素・低栄養下でも増殖し続ける腫瘍は,治療終了後に再発する癌の原因の1つと考えられており,低酸素イメージングは…… |
4) |
分子標的イメージング (酵素発現,アポトーシス,アンチセンス,アプタマー) (福田 寛)
組織あるいは細胞特異的に発現する遺伝子情報,タンパク分子情報を可視化する分子標的イメージング法が発展している。腫瘍の転移や血管新生に関与するMMP-2の酵素活性を画像化する薬剤として18F-SAV03Mを開発した。担癌マウスの体内動態および腫瘍内分布を検討し,この化合物が有望であることを確認した。…… |
6. |
In-Cell NMRによる細胞内タンパク質の構造・機能の観察 (杤尾豪人・白川昌宏)
溶液NMR法によるタンパク質構造解析は,X線結晶回折法,電子顕微鏡法とともに「構造生物学」の一翼を担う方法論である。その一方で,NMR法は生体に対する侵襲性が極めて低い。筆者らは,NMRの「原子分解観測能」と「生体に対する低侵襲性」の2つの特徴を活用し,…… |