第1章 技術編
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3.光イメージングによる分子イメージング |
1) |
光イメージング分子プローブ (浦野泰照)
「生きている状態の生物試料」で起こる種々の応答をリアルタイムで観測することの重要性が,近年の基礎生物・医学研究において強く認識されるようになってきた。本計測を実現する技法として,観測対象現象・分子を高感度に可視化する蛍光プローブを用いて,蛍光顕微鏡下で生細胞応答を観測する技法が広く汎用されている。…… |
2) |
蛍光タンパク質によるバイオイメージング (唐澤智司・宮脇敦史)
オワンクラゲGFPの遺伝子が同定されて以来,多くの蛍光タンパク質遺伝子が単離され,また使いやすく改変されてきた。日本国内においても独特な蛍光特性をもつ蛍光タンパク質が開発されている。Keima(桂馬)は色素タンパク質から改変により…… |
3) |
細胞内イメージング(FRETなど) (清川悦子・松田道行)
細胞内の情報伝達の時空間情報を得るために,蛍光共鳴エネルギー移動(fluorescence
resonance energy transfer:FRET)の原理に基づく分子プローブが開発されている。様々な分子の活性変化をビデオ画像化するだけでなく,時間分解能に優れているという特性を生かし,…… |
4) |
多光子CALI法を用いた標的分子阻害 (高松哲郎)
多光子CALI法において,標的タンパクと蛍光タンパクとの融合分子を適当な細胞に強制発現させ二光子励起することにより,標的タンパクの機能を即座にかつ特異的に不活性化できる。多光子CALI法のこのような特徴はこれまでの技術ではなしえなかったものであり,今後のタンパク分子の機能解析に大きく寄与すると考える。 |
5) |
量子ドット医薬の開発と分子標的薬物担体への展開 (山本健二)
量子ドットは,1桁ナノメートルほどの大きさをもった金属,半導体などの超微小結晶である。このナノ粒子は量子サイズ効果により強い蛍光をもち,蛍光持続時間も有機蛍光色素に比べ著しく長いという特徴をもっている。このナノ粒子の表面を有機酸やアミン,アミノ酸,ペプチドや糖など,およびその誘導体などで結合し,親水性ナノ粒子を製造することが可能である。…… |
6) |
マウスからヒトにいたるin vivo 光イメージングとその周辺技術 (上田之雄)
マウスからヒトにいたるin vivo 光イメージングについて,蛍光や発光,吸収イメージングなどを取り上げ,それぞれの特徴について概説する。in vivo 光イメージングにおいて,二次元のマッピングでは深さ情報がないため定量性に欠けるという問題がある。そのため三次元画像化をめざすことになるが,光による生体内の三次元画像化には…… |
7) |
眼科における光干渉断層計 (板谷正紀)
光干渉断層計(OCT)は,最も精密な断層画像を得ることができる。眼科領域へいち早く導入され,眼底疾患の疾患概念に修正をもたらすとともに,黄斑浮腫や緑内障における網膜の形態定量的眼科診断を進歩させるなど,エポックメーキングな診断装置となった。2006年より,スペクトラルドメインと呼ばれる新しい検出技術による次世代のOCTが上市され,…… |
4.その他の分子イメージング |
1) |
生体内フリーラジカル反応の可視化 (山田健一・内海英雄)
生体は,様々な内的・外的刺激により活性酸素,フリーラジカルを産生している。通常,これらフリーラジカルは,生体内に存在する抗酸化物質とレドックスバランスを保っているが,いったんそのバランスが破綻すると,生体膜や組織を構成する生体内分子を攻撃し,種々の炎症や発癌,老化などの疾患の原因になると考えられている。…… |
2) |
CT による分子イメージング支援 (市原 隆)
CT技術は過去数年間で空間分解能,時間分解能が著しく進歩した。本稿ではCT検査における造影剤と放射線被曝について触れながら,分子イメージング支援に関係するマルチスライスCT技術,CT造影検査(CT
angiography : CTA)による冠動脈狭窄・プラークの画像化,心筋パーフュージョン評価について最新状況を紹介する。 |
3) |
無染色細胞イメージング (藤田克昌)
生体内の分子を光を用いて無標識でイメージングする技術について解説する。第2高調波発生やラマン散乱は,分子の極性や配向,分子振動に影響を受けた光を発するため,これらを分光計測すれば,特定の分子の存在やその空間分布を知ることができる。…… |
4) |
MRI 顕微鏡 (松田哲也・楢崎美智子・水田忍・塩田浩平)
MRIの中でも分子イメージング研究において活躍が期待されるような高い空間分解能をもつシステムはMRI顕微鏡(MRマイクロスコープ)と呼ばれ,すでに小動物を対象とした生物学的研究に利用されている。現在の小動物用MRI装置で実現している数十μmあるいはそれ以上の空間分解能になると,信号強度の低下をはじめとした様々な問題点が生じ,…… |
5) |
顕微質量分析装置 (吉田佳一)
光学顕微鏡で組織切片を観察し,その場で任意の領域のマススペクトルを測定し,組織上の質量数の異なる生体分子の分布(マスイメージ)を高空間分解能で解析できる顕微質量分析装置を開発している。本装置を用いて,ラット小脳組織切片のマスイメージを測定し,質量数が異なる生体分子の分布が灰白質と白質で異なることを示した。…… |
6) |
原子間力顕微鏡の原理と生体試料への応用 (吉村成弘)
原子間力顕微鏡(AFM)は,試料の固定・染色を必要としないにもかかわらず,光学顕微鏡よりはるかに高い解像度(数nm)を得ることができるナノイメージングデバイスとして,これまで生物一般や生命科学の分野で広く利用されてきた。近年では,分子間相互作用をピコニュートンという精度で測定したり,物体や物質の物理的性質を評価するための計測機器としても広く利用されつつある。…… |
7) |
近接場ラマン顕微鏡 (河田 聡・市村垂生)
光の回折限界を超えたナノメートルスケールの空間分解能で光学イメージングを可能とする近接場光学顕微鏡法について,その原理と実例を概説する。特に,近接場ラマン顕微鏡によりナノ領域での生体分子分光および分光イメージングを実現した最先端の研究例を紹介し,生命機能研究への応用の可能性について述べる。 |