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トランスレーショナルリサーチを支援する
シグナル伝達を知る
−その分子機序解明から新たな治療戦略まで−
編  集: 菅村和夫(東北大学大学院医学系研究科免疫学分野教授)
佐竹正延東北大学加齢医学研究所免疫遺伝子制御研究分野教授
編集協力 田中伸幸宮城県立がんセンター研究所免疫学部部長

本書籍をご購入の場合は ……………… 1冊 本体 5,000円+税


要 旨
(第2章3.〜4.)

第2章 臨床応用編
3.代謝性疾患とシグナル
1) 糖尿病とシグナル伝達異常:特に糖輸送促進へのインスリン作用障害について (岡 芳知)

血糖制御機構におけるインスリンの重要な作用として,骨格筋や脂肪組織へ血中のグルコースを送り込むことがある。インスリンの糖輸送促進機構とは,インスリンによるGLUT4の細胞内から細胞膜へのトランスロケーションといってよい。すなわち,細胞膜での糖輸送を担う膜タンパクであるGLUT4は,インスリン刺激がないときには細胞内にとどまっているが,インスリン刺激により細胞膜へ移動(トランスロケーション)する。これにより,細胞膜でのGLUT4の量が数分のうちに増加して糖輸送活性が5?10倍に増加するのである。糖尿病の大部分を占める2型糖尿病患者では,このシグナル伝達が障害されていることから,インスリンによる糖輸送促進機構は創薬の面からも極めて注目されている。
2)

神経系による糖・エネルギー代謝の臓器間協調的調節と肥満・糖尿病  (片桐秀樹)

体重は摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスで決まるが,日によって食事量や運動量が異なっても,すぐに体重が大きく変化することはなく,エネルギー代謝の恒常性を維持する機構が体内に内在している。この機構の乱れが肥満やそれに伴う代謝異常(糖尿病など)につながるものと考えられる。しかし,エネルギー代謝の調節機構の解明はまだ始まったばかりである。本稿では,われわれが最近発見した自律神経ネットワークによる糖・エネルギー代謝の協調的調節機構を概説する。肥満・糖尿病に対する治療戦略を考えるうえでも,臓器間の協調的代謝調節機構の解明は重要であると思われる。

3) インスリンシグナルと2型糖尿病 (浅野知一郎・鎌田英明)

膵β細胞から分泌されるインスリンが,筋肉,脂肪,肝臓といった「インスリン感受性臓器」に作用することで血糖の低下は引き起こされる。これには,インスリン受容体からIRSタンパクを介したPI3キナーゼ/Aktの活性化が極めて重要であり,肥満によるインスリン抵抗性ではIRSタンパクのセリンリン酸化の増加とともにPI3キナーゼ活性化の障害が認められる。しかし,インスリン抵抗性を引き起こす要因は多数あり,それぞれインスリンシグナルの障害部位は異なっている。一方,最近,インスリンのシグナル伝達は,膵β細胞や中枢神経の機能にも重要であることが,インスリン受容体のノックアウトマウスなどの研究から示されている。
4)

膵臓の分化誘導シグナルと糖尿病モデル動物 (勝本恵一・粂 昭苑)

糖尿病は,膵β細胞から分泌されるインスリン量の絶対的不足に起因し,糖代謝能力低下を引き起こす。合併症として,網膜症,腎機能障害など重篤な疾患を引き起こす。糖尿病の根治治療法として,ドナー不足の心配がないES細胞から膵β細胞を分化誘導する再生医療への期待が高まっている。ES細胞からの臓器再生研究から多くの知見も得られつつあるが,正常発生を理解してこそ効果的かつ効率的な臓器再生が行える。本稿では,膵臓の正常発生と膵癌について概説し,糖尿病研究には欠くことのできない実験モデル動物についても言及する。

5) アディポサイトカインとメタボリックシンドローム (大橋浩二・船橋 徹)

近年,脂肪組織が種々の内分泌因子(アディポサイトカイン)を産生・分泌し,その産生異常がメタボリックシンドロームを引き起こすことが明らかになった。特にアディポネクチンは動脈硬化,インスリン抵抗性,心肥大に対する防御作用などメタボリックシンドロームに対して様々な作用を有しており,その共通のメカニズムとして,AMPキナーゼを介するシグナル伝達の重要性がクローズアップされてきている。本稿ではアディポネクチンを中心に,アディポサイトカインのメタボリックシンドローム発症への関与について概説する。
6) 栄養シグナルと糖脂質代謝転写調節 (島野 仁)

肝臓における糖代謝・脂質代謝は,栄養状態に応じて転写レベルで制御されている。絶食時,摂食時に変動する酵素遺伝子群を上流で調節する転写因子が明らかになってきた。PPAR,SREBP,Foxoファミリーは,互いにクロストークにより相互作用しながら,エネルギー代謝のネットワークを形成している。これらの転写因子ネットワークは,生理的に恒常性維持を担う一方,栄養バランスが崩れた場合には,インスリン抵抗性や肥満などの病態に関与し,生活習慣病を形成していく。エネルギー代謝転写因子の病態を知り,また制御していくことが生活習慣病の理解や治療に重要である。
7) 核内レセプターPPARsによるメタボリックシンドロームの発症と改善機構 (酒井寿郎)

骨格筋由来L6筋管細胞を用いたDNAマイクロアレイの解析から,核内オーファンレセプターPPARδに対する選択的アゴニスト投与により脂肪酸のトランスファー,脂肪酸活性化,脂肪酸のβ酸化および脂肪酸脱共役タンパク質(UCP)といった脂肪酸異化に関わる全プログラムの遺伝子の転写が骨格筋において活性化されることが明らかにされた。高脂肪食食餌による肥満マウスへの投与実験では,基礎代謝量の上昇とともに骨格筋,肝臓,脂肪細胞への脂質の蓄積を解消し,高脂肪食による体重増加を約4割減少させ,耐糖能低下,インスリン抵抗性は改善が認められた。食欲,行動量の変化は認められなかった。レプチン遺伝子変異により極度の肥満を呈するob/obマウスでの投与実験では体重減少はわずかながらも,インスリン抵抗性,耐糖能異常の著明な改善が認められた。PPARδの選択的アゴニストが肥満,耐糖能異常,インスリン抵抗性,脂質代謝異常を伴う「メタボリックシンドローム」への優れた治療薬となる可能性が示された。
4.循環器疾患とシグナル
1) 血管新生のシグナル伝達 -VEGFのシグナル伝達- (小林美穂・水野健作・佐藤靖史)

既存の血管から新しい血管網が作られることを血管新生と呼び,癌や粥状動脈硬化症と密接に関連することが明らかとなっている。これら疾患において重要な役割を担っている強力な血管新生誘導因子VEGFは,細胞膜上に発現している受容体と結合し,様々な細胞内シグナル分子の活性化を介して血管内皮細胞の増殖・遺伝子発現・遊走・管腔形成を誘導する。現在,このVEGFをターゲットとした抗癌剤や血管再生療法が確立しつつあり,新しい治療戦略として注目を集めている。
2) 高血圧 (竹内和久・伊藤貞嘉)

高血圧の成因には腎尿細管-糸球体フィードバック(TGF)機構による腎内血行動態調節が深く関与している。この機構にはMD細胞における食塩感知機構が重要な役割を負っている。また、高血圧臓器障害にはアンジオテンシン II 受容体情報伝達系が重要で、この平滑筋での作用情報伝達機構は平滑筋収縮・細胞増殖・肥大・アポトーシス・炎症などの細胞作用とリンクしている。
3) 冠動脈攣縮とRhoキナーゼ (田原俊介・下川宏明)

冠動脈攣縮は虚血性心疾患全般の成因や病態に深く関与しているが,その本体と考えられる血管平滑筋過収縮の分子機序はまだ不明な点が多い。われわれは,冠動脈攣縮の動物モデル(ブタ)の攣縮部ではRhoキナーゼを介したシグナル伝達が亢進していることを明らかにした。また,ヒトの冠動脈攣縮に対してRhoキナーゼ阻害薬が有効であることも見出した。これらの結果は,冠動脈攣縮の分子機序にRhoキナーゼが重要な役割を果たしており,選択的Rhoキナーゼ阻害薬は冠動脈攣縮に対する新たな治療薬となりうる可能性を示唆する。
4) RAS/MAPKシグナル伝達とヒト先天異常症 (青木洋子・松原洋一)

ヒト膀胱癌細胞株由来のDNAをNIH3T3細胞にトランスフェクションし形質転換する細胞を分離するという地道な努力によって,1982年に初めてヒトの癌遺伝子Harvey-RAS(HRAS)遺伝子が同定され,その中に遺伝子変異(G12V)が存在した。それから23年,私達は同じHRAS遺伝子変異を先天奇形症候群であるCostello症候群に同定し,さらにKirsten-RAS(KRAS),B型RAFキナーゼ(BRAF)癌原遺伝子,MAPキナーゼキナーゼMEK1/2の生殖細胞変異が,Costello症候群に類似するCFC症候群に同定された。この2つの症候群はともに先天性心疾患を伴うことが知られている。これらの原因遺伝子発見の経緯とヒト発生に関与するシグナル伝達について解説する。
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