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RNAと創薬
編集: 中村義一東京大学医科学研究所遺伝子動態分野教授)

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要 旨
(第1章 1.〜2.)

  概論:RNA科学 (中村義一)
    

    要旨なし
第1章 創薬ツールとしてのRNA
1.アプタマー創薬
1) アプタマー工学 (大内将司)

アプタマーは核酸ライブラリーから人工的に取得された親和性分子である。低分子化合物からタンパク質に至る様々な標的分子に対して,高い親和性・特異性で結合するアプタマーが取得されており,治療薬や検出システム,親和性担体,そして基礎研究の解析ツールへの応用が期待されている。アプタマーは抗体とは異なった特性を有しており,これらの応用技術は,特に抗体の使用が困難な場面において汎用性の高いものになるであろう。
2)

RNA抗体としてのポテンシャル (中村義一)

SELEXによって,核酸との相互作用がないかまたは低いタンパク質を標的としてRNAアプタマーの作製を試みた。その結果,40〜50鎖長のランダム配列のプールを利用すれば,RNA結合モチーフがない標的タンパク質に対しても高親和性のアプタマーが取得でき,標的タンパク質の活性を抑制したり,特異的に検出できることを明らかにした。標的タンパク質との結合は抗体の数十倍の強さで,その優れた親和力は,抗体がピンポイントで標的を捕捉するのに対して,アプタマーは高分子RNAの全体を利用して標的を捕捉する「形状認識」によるものである。

3) 抗HCV,抗HIVアプタマー (西川 諭・楳原琢哉)

アプタマーは核酸ライブラリーから人工的に取得された親和性分子である。低分子化合物からタンパク質に至る様々な標的分子に対して,高い親和性・特異性で結合するアプタマーが取得されており,治療薬や検出システム,親和性担体,そして基礎研究の解析ツールへの応用が期待されている。アプタマーは抗体とは異なった特性を有しており,これらの応用技術は,特に抗体の使用が困難な場面において汎用性の高いものになるであろう。
4) アプタマーによるシグナル伝達の阻害と制癌戦略 (平尾一郎)

細胞の増殖に関わるMAPキナーゼ(MAPK)カスケードは,細胞周期・分化・アポトーシスなど様々なシグナルの伝達に関与している。そして,この伝達経路の異常は,細胞の癌化に密接している。従って,MAPKカスケードに関与するタンパク質に特異的に結合し,シグナルの伝達を遮断する物質は,癌の治療薬として利用できる。RNAアプタマーによるMAPKシグナル伝達の制御は,今のところわずかな例しかないが,将来的には制癌戦略の手法の1つに組み込まれると期待される。
5) Aptamer Therapeutics (David J. Fontana・David E. Epstein・Charles Wilson)

In the simplest view, aptamers can be thought of as nucleic acid analogs to antibodies. Aptamers are able to bind specifically to proteins, and, in many cases, that binding leads to a blockade of protein activity. New aptamers are generated rapidly through the SELEX (systematic evolution of ligands by exponential enrichment) process and have very high target affinity and specificity (pM to nM). Furthermore, aptamers composed of modified nucleotides have a long in vivo half-life (hours to days), are non-toxic and non-immunogenic, and are easily produced using standard nucleic acid synthesis methods. As a new class of therapeutics, aptamers bridge the gap between small molecules and biologics. Like biologics, biologically-active aptamers are rapidly discovered, have no class-specific toxicity, and are adept at disrupting protein-protein interaction. Like small molecules, aptamers can be rationally engineered and optimized, are non-immunogenic, and are produced by moderate cost, scalable chemical procedures. As such, aptamers are emerging as an important source of new therapeutic molecules. Here, we review their in vivo pharmacokinetic properties with reference to aptamer therapeutics currently in clinical and preclinical development.

《 要旨日本語訳 》
最も単純な概念では、アプタマーは抗体に対する核酸類似体と考えられる。アプタマーは特異的にタンパク質に結合し、多くの場合、その結合によってタンパク質の活性を遮断する。新規のアプタマーはSELEX(試験管内人工進化法)工程中に速やかに産生され、非常に高度の標的親和性および特異性を有する(pM?nM)。さらに、修飾ヌクレオチドで構成されるアプタマーは、in vivo で長い半減期(数時間?数日)を有し、非毒性かつ非免疫原性で、標準核酸合成法により容易に産生される。新たなクラスの療法として、アプタマーは小分子と生物学的製剤の間にある溝の橋渡しをする。生物学的製剤と同様に、生物学的に活性のあるアプタマーは速やかに発見され、クラス特異的な毒性はなく、タンパク質-タンパク質間相互作用を破壊するのに優れている。小分子と同様に、アプタマーは合理的に設計および最適化され、非免疫原性で、適度なコストおよび計測可能な化学的手技で作成される。このため、アプタマーは新規治療分子の重要な供給源として浮上しつつある。本稿で、われわれは現在、臨床および前臨床段階の開発におけるアプタマーの治療法を参考にして、そのin vivo における薬物動態学的特性を検討する。
6) RNAアプタマーの特許状況および開発動向 (河瀬博之)

近年,RNAは創薬のターゲットツールとして非常に注目されており,特にRNAアプタマーは,MacugenRが血管新生加齢性黄斑変性症(AMD)の治療薬として米国FDAに販売承認されたことから,急に注目を集めるようになった。研究・開発を行うに際して,一般的にはSELEX法というアプタマーを取得する方法を使用するが,その基本方法の特許以外にもそれを改良した方法に関する特許が数多く米国で成立している。また,各種ターゲットのアプタマーに関しても,既に米国で多くの特許が取得されている。最近,米国のみならず日本においても,RNAアプタマー医薬の研究・開発を進めるベンチャーが現れてきた。
2.RNAi創薬
1)

RNAiの分子メカニズム (九十九裕子・Lalith Gunawardane・塩見美喜子)

1998年に線虫においてRNAi現象が示されてから,はや7年という歳月が経とうとしている。RNAi発見以来,その分子メカニズムを解明しようとする動きは大きく,遺伝学,生化学両面からの研究が勢いをもって進み,基本機構の解明まであと1歩というところまで来ている。ほんの20数塩基からなる小さなRNAとその最終パートナーArgonauteタンパク質が成し遂げる生業は,古典的な「セントラルドグマ」にも大きな変化をもたらそうとしている。

2) miRNAによる高次機能調節 (齋藤都暁・塩見春彦)

microRNA(miRNA)はmRNAと相互作用することで,標的mRNAの分解や翻訳抑制に寄与し,発生・分化の様々な局面に関与していることが明らかとなってきた。また,miRNAは,ヒトにおいて1000種類ほど存在することが予想されており,タンパク質をコードするmRNAの約10%以上がmiRNAによって制御される可能性が示唆されている。従って,miRNAを疾患に対する創薬の対象として捉えることが現実味を増してきた。
3) microRNAの機能と疾患 (神津知子)

microRNA(miRNA)は,20〜24ヌクレオチドの単鎖RNAで,翻訳レベルでタンパク質の発現を抑制し,特に発生,形態形成,アポトーシスなど生命の高度機能発現に重要な役割を果たすと考えられている。これまでに400種以上のmiRNAの分子種が見出され,系統発生的によく保存されていることが明らかになっている。本稿では,miRNAの発現と機能,およびmiRNAが関わるヒトの疾患について概説する。
4) 神経変性疾患 (横田隆徳)

short interfering RNA(siRNA)は既に治験段階に入っているアンチセンス核酸より,有効性,配列特異性いずれもはるかに優れており,臨床への応用が期待されている。現在,siRNAを用いた遺伝性神経変性疾患の変異遺伝子自体を治療するといった究極の遺伝子治療を目指した基礎研究が進行している。さらに孤発性神経変性疾患においても,その機序の解明に伴い,判明したキーとなる分子をターゲットとしたsiRNAによる治療戦略も始まった。デリバリーの方法やoff-target効果など,まだまだ解決すべき問題点も多いが,他に治療法のない神経変性疾患にsiRNAの応用が急速に進展していくことは間違いないものと思われる。
5) 膀胱癌 (湯浅 健・野河正輝・木村晋也・前川 平)

short interfering RNA(siRNA)は,in vitro における効果は明らかであるが,in vivo,さらには臨床応用を考慮した場合,ドラッグデリバリーシステム(drug delivery system:DDS)の開発が鍵だと思われる。われわれは,DDSの問題を克服するためには「局所へ高濃度のsiRNAを貯留させることにより,一定時間癌細胞と接触させる」ことが重要だと考え,膀胱癌に対するsiRNAの膀胱内注入療法に取り組んでいる。本稿では,マウス膀胱癌正所性モデルとその測定システムの開発,ならびに細胞の分裂・増殖において重要な役割を担っていることが最近明らかとなってきたpolo-like kinase-1PLK-1)遺伝子を分子標的とした膀胱癌に対する siRNA療法の開発を目指して行っている研究の一端を紹介したい。
6) 癌の全身性転移に対する新規治療戦略:アテロコラーゲンDDSによるsiRNAを用いたヒト前立腺癌骨転移モデルの効果的抑制 (落谷孝広)

siRNAは遺伝子機能解析に盛んに用いられるようになり,将来的には医薬品としての開発に期待が集まっている。しかし,siRNAはin vivoで十分な効果が得られないことが大きな障害であり,優れたデリバリー技術の開発が実用化への課題とされている。われわれのアテロコラーゲンDDSはsiRNAの生体内安定性を保証するばかりか,インターフェロンなどの誘導を起こさない安全性の高いデリバリー方法であり,siRNAの臨床応用をひらくツールとして期待されている。ここでは前立腺癌の骨転移モデルにおけるsiRNAの全身性デリバリーについて紹介する。
7) RecQヘリカーゼを標的とした制癌剤治療 (高木基樹・佐藤あゆみ・嶋本 顕・古市泰宏)

われわれの研究から,ヒトRecQL1へリカーゼはゲノムの安定化維持に重要な働きをすることが示唆された。そこで,癌細胞でのRecQL1の役割を明らかにするために,siRNAを用いて,ヒト癌細胞においてRecQL1へリカーゼの発現を抑制したところ,癌細胞ではアポトーシスが誘導され細胞増殖の抑制が観察されたが,正常二倍体線維芽細胞においては細胞増殖の抑制効果は観察されなかった。さらに,担癌マウスモデルを利用し,RecQL1 siRNAによるin vivo における腫瘍増殖の抑制効果を明らかにした。現在,RecQL1 siRNAを抗癌剤として開発するプロジェクトを展開中である。
8) 血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)を分子標的としたsiRNA治療薬の開発 (武井佳史)

血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)は,腫瘍の血管新生の鍵となる因子である。われわれは,ヒト前立腺癌細胞PC-3のVEGFの発現をほぼ完全に抑制可能なshort interfering RNA(siRNA)を確立した。本siRNAをバイオマテリアルのアテロコラーゲンと混合して複合体を調製し,これをヌードマウス皮下に移植したPC-3腫瘍に注入することにより,良好な抗腫瘍効果を得た。アテロコラーゲンが腫瘍組織内におけるsiRNAの安定化と腫瘍細胞内部へのsiRNAの導入において重要な役割を果たしていることを証明した。アテロコラーゲンはsiRNAのin vivoデリバリーにおいて,とても有用なバイオマテリアルであることを明らかにした。
9) RNAi医薬の現状と今後の展望(臨床研究, パテント, 海外の研究動向など) (野沢 厳)

遺伝子機能解析およびバリデートのためのツールとして既に汎用技術となったsiRNAの医薬品への応用研究が足早に進められている。2004年,加齢性黄斑変性症を対象疾患とした2件の臨床試験が早くも開始された。2005年には多くの臨床試験が計画されており,siRNAキャリア(カチオン性リポソームやポリマーなど)や安定化技術(末端修飾や糖鎖修飾など)を含めたヒトでの安全性および有効性に関する多くの知見が得られるものと予想される。Alnylam社が網羅的な知的財産網を構築しており,同社を中心に開発が進められるであろう。また,RNAi遺伝子治療に関しても,ウイルス疾患(HIVやHVCなど)を対象とした開発に大きな進展がみられる1年となるものと思われる。
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