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糖鎖と病気
編集: 谷口直之(大阪大学大学院医学系研究科生化学・分子生物学講座教授)

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要 旨

(第2章 1.〜2.)

第2章 臨床応用編
1.糖鎖と診断
1) 血液型異常と糖鎖 (中村 充)

近代輸血療法を確立するきっかけとなったABO式血液型の発見から約百年が経過した。ようやく糖鎖性血液型システムで重要な鍵を握る糖転移酵素遺伝子群が明らかとなり,血液型異常の分子基盤の全容がほぼ解明された。本稿ではABO・Hh・ルイス・P・Ii式血液型を決定する糖転移酵素遺伝子について解説する。それら糖転移酵素遺伝子の変異と糖鎖性血液型および病気との関係が,かなり明快に説明できるようになった。ここでは特にP式ならびにIi式血液型システムにおける最近の研究成果を中心に詳述した。
2)

C型レクチンMGL/CD301による抗原特異的組織リモデリングの制御 (佐藤佳代子入村達郎)

ガラクトース型糖認識部位をもつマクロファージガラクトース型C型レクチン(MGL/CD301)には,類似性の高い2種類のMGL1とMGL2が存在している。MGL1と2は,マクロファージや未成熟樹状細胞に発現していることが明らかにされている。MGL1の組織リモデリングにおける役割を検討したところ,組織新生がMgl1 遺伝子欠損マウスでは認められなかったこと,およびこの抑制はIL-1α投与により解除されることから,MGL1はその発現細胞の組織内分布を制御することでIL-1αの局所的な濃度を調節し,組織リモデリングを制御している分子の1つであることが示された。

3) ガレクチンが関与する生命現象と糖鎖認識 (平林 淳)

ガレクチンはラクトサミンをはじめとするβガラクトシドに親和性を示す可溶性のレクチンで,多細胞動物界で広い分布を示す。これまで哺乳類では15種の報告があり,発見順に番号が付されている。個々のガレクチンの構造と糖特異性は有意に異なっているため,その性質の違いを反映した生物機能が想定される。ガレクチンが関与する生命現象はT細胞の細胞死誘導,神経細胞伸展,細胞悪性化(転移促進),細胞接着・凝集,好酸球遊走,免疫応答調節など多岐に及ぶ。広範に展開する現状のガレクチン研究を概説する。
4) 糖転移酵素のSNPsによって決定される血液型 (佐藤 隆栂谷内晶成松 久)

糖鎖構造を抗原とする血液型にはABO式,ルイス式,Ii式,P式血液型などが知られているが,それらはその糖鎖構造を生合成する糖転移酵素遺伝子のSNPsによって決定される。これらの生合成に関与する糖転移酵素遺伝子のほとんどはクローニングされており,血液型決定に関与するSNPsがそれぞれの遺伝子で報告されている。多くの場合,血液型はそれらのSNPsによって糖転移酵素が失活したり,基質特異性が変化したりして,合成される糖鎖構造に変化が生じたものである。
5) 血清マンナン結合タンパク質(MBP)と病気 (川嵜伸子中川知明川嵜敏祐)

血清マンナン結合タンパク質(MBP)はマンノース結合タンパク質あるいはマンナン結合レクチン(MBL)とも呼ばれ,マンノース,N-アセチルグルコサミン,フコースに特異的なレクチンである。本レクチンが病原微生物などの細胞表面に結合することが引き金となり,補体系が活性化されること(補体活性化レクチン経路)が明らかにされて以来,生体防御因子としての役割および病態との関係が注目されている。ここではMBPと病気,特に免疫不全症との関係およびSNPsを中心とする遺伝的素因との関係について最近の状況を紹介したい。
6) ピロリ菌と糖鎖 (川久保雅友中山 淳)

Helicobacter pylori H. pylori)は胃炎や慢性消化性潰瘍のみならず,胃癌や胃悪性リンパ腫の発症にも深く関与しており,医学的に重要な病原性細菌である。糖鎖研究の観点から,Lewisbに代表される胃粘膜表層粘液細胞に含まれる糖鎖がアドヘジンであるBabAを介してH. pyloriとの接着に重要な役割を担っていることが明らかにされている。筆者らは胃粘液糖鎖のもつ新たな機能として,粘膜中〜深層の腺粘液細胞に含まれるαGlcNAc残基がH. pylori に対して防御的に働いている可能性を見出した。
2.糖鎖と治療
1) ボツリヌス中毒と糖鎖 (西河 淳小熊恵二)

ボツリヌス神経毒素は神経細胞内に侵入後,アセチルコリンの放出を阻害して強力な弛緩性麻痺を引き起こす。食品中で産生された神経毒素は無毒のタンパク質群とともに巨大な複合体をなしており,経口摂取され小腸上部より吸収された後,神経毒素が血行性に神経細胞へ到達すると考えられている。しかしながら,無毒タンパク質成分の役割や巨大分子の吸収,血管移行メカニズムの全容は未解明である。本稿では著者らの最近の研究をもとに,ボツリヌス毒素複合体が細胞表面の糖鎖を介して細胞内に移行する現象について紹介する。
2) 抗体医薬 (佐藤光男山根尚子丹羽倫平森 勝弘新川豊英内田和久設楽研也)

近年の抗体工学の進歩により,ヒトに対する抗原性が低く臨床応用可能な遺伝子組換え抗体の作製が可能となった。これにより,非ホジキンリンパ腫治療薬の抗CD20抗体リツキサン®(リツキシマブ)や乳癌治療薬の抗Her2抗体ハーセプチン®(トラスツズマブ)などをはじめとする多くの抗体医薬が期待の新薬として登場した。抗体はFc領域にN-グリコシド結合複合型糖鎖を有する糖タンパク質であり,その微細な構造の違いがエフェクター活性や血中半減期に影響を与える。本稿では抗体糖鎖へのフコース修飾の有無が抗体依存的細胞傷害活性(ADCC活性)に大きな影響を与えるとの最新の知見を中心に,糖鎖構造が抗体医薬の薬理効果に及ぼす影響について考察する。
3) 異種糖鎖抗原の改変とその利用 (宮川周士)

ブタの細胞や臓器をヒトに移植する場合,超急性拒絶反応が起こる。この原因として糖鎖抗原,特にα-galactosyl エピトープ(Galα1,3Galβ1,4GlcNAcβ1-)が重要視されている。この他,Hanganutziu-Deicher antigen という抗原もみつかり,これらを制御するには,①他の糖転移酵素による糖鎖末端での基質に対する競合阻害,②糖鎖合成におけるリモデリング,③ノックアウト,④酵素による抗原の切断,⑤その他dsRNAによる方法がある。
4) Toll-like receptor(TLR)の糖鎖リガンド認識機構 (瀬谷 司)

Toll-like receptor(TLR)は外来性の微生物成分に応答して樹状細胞を成熟化させる代表的なレセプターファミリーである。ヒトでは10種類あり,それぞれ異なったリガンドを識別し,特異的な樹状細胞応答を誘起する。認識リガンドはタンパク成分より微生物に特有な糖・脂質が多い。従って,リンパ球のレセプターによる抗原識別機構とは根本的に異なる。原則として糖・脂質の認識は自然免疫,タンパク・ペプチド認識は獲得免疫,両者の活性化が免疫応答と生体防御には必須という概念が成立しつつある。本稿ではBCGの成分muramyl dipeptideの誘導体とpolyI : Cを例にとり,糖鎖認識がTLRにいかなる細胞応答を誘起するかを分子論的に解説する。
5) パンデミックインフルエンザA型ウイルスノイラミニダーゼの構造と機能 (鈴木 隆高橋忠伸鈴木康夫)

インフルエンザウイルスゲノムの遺伝子配列が比較解析できるようになった現在においても,ウイルスの病原性に関する分子機構は依然よくわかっていない。アジアかぜや香港かぜのパンデミックウイルスに見出されたlow-pH条件下でもシアリダーゼ活性を保持するN2型ノイラミニダーゼ(NA)の機能が,キメラタンパク質を用いた構造解析と遺伝子操作系により作製された遺伝子変異ウイルスの感染モデル実験から解明されつつある。本稿では,パンデミックウイルスN2型NAの構造と機能に関して概説する。
6) ヘルペスウイルス感染におけるエンベロープ糖タンパクの役割 (森 康子)

ヘルペスウイルスはウイルス粒子の最外層を形成しているエンベロープにウイルス特異的な糖タンパクをもつ。これらの糖タンパクはウイルスの宿主細胞への侵入過程や細胞内でのウイルス粒子の成熟,細胞外への出芽に関し重要な役割を果たしている。ヒトヘルペスウイルス6 (human herpesvirus 6 : HHV-6 ) はTリンパ球向性のウイルスであり,塩基配列,細胞向性の違いなどにより2つのバリアントに分けられている(HHV-6A, HHV-6B)。HHV-6AはヒトCD46を発現する細胞において多核を伴った細胞膜融合を引き起こすが,その膜融合に際し,ウイルスエンベロープにある糖タンパクであるgH/gL/gQ複合体およびgBがその機能を担っていることが判明してきた。本稿ではヘルペスウイルス,特にHHV-6がコードするエンベロープ糖タンパクの機能に関して,現在までの知見を解説する。
7) エイズウイルスの病原性と糖鎖 (森 一泰杉本智恵)

エイズウイルス感染において宿主はウイルス増殖を十分に抑制できない。関連する現象・ウイルスの性質として,変異ウイルス出現による免疫からの回避,感染の標的が免疫機能に重要なCD4+T細胞であること,ウイルス粒子表面が多数の糖鎖に覆われていること,2つのレセプターを用いる感染の仕組みが挙げられる。これらの大部分はウイルスEnvタンパクの性質,糖鎖修飾と関連している。動物モデルによる糖鎖欠失変異ウイルス感染からは,糖鎖欠失によりウイルスの病原性は低下し,宿主は感染を制御すること,また感染ザルが有効な防御免疫を誘導することから,このモデルがエイズワクチン研究に有用であることが示された。
8) 幹細胞 (中村 充)

発生誘導シグナル(Notch,Wnt,Shhなど)調節機構の研究成果が,幹細胞研究に応用されはじめた。幹細胞研究は癌性幹細胞の概念を生み出し,癌研究さえも根底から変えようとしている。NotchとFng(フリンジ:GlcNAc転移酵素),WntやShhとヘパラン硫酸の組み合わせにみられるように,糖鎖生物学も発生学研究に貢献しはじめた。こうした流れの中で,幹細胞を糖鎖生物学の切り口で研究する試みが始まろうとしている。本稿では,糖鎖生物学研究の次世代ターゲットとしての幹細胞研究,その現状を概説する。
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