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糖鎖と病気
編集: 谷口直之(大阪大学大学院医学系研究科生化学・分子生物学講座教授)

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要 旨

(第1章 4.〜5.)

第1章 基礎編
4.糖鎖シグナル
1) シグレック抑制性シグナルを伝えるレクチン分子 (山地俊之川口しのぶ中川和博橋本康弘) 

シグレックはイムノグロブリン・スーパーファミリーに属し,シアロ糖鎖を結合するレクチンの一種である。主に血球系の細胞に発現されており,細胞内に抑制性シグナルモチーフをもつものが多い。血球の分化や活性化の制御に重要なシグナル伝達を行うと考えられている。シグレックは同じ細胞膜上の糖鎖リガンドにcisに結合することも他の細胞上のリガンドにtransに結合することもある。リガンドの発現調節やシグレックに対するaccessibilityを考慮しながらシグナルシステムの全体像を理解することが大切である。
2)

O-GlcNAc修飾とシグナル伝達 -核および細胞質内におけるタンパク質の糖鎖修飾- (秋元義弘川上速人)

核および細胞質に存在するタンパク質の多くは,セリンあるいはスレオニン残基にN-アセチルグルコサミンが1分子だけ結合したO-GlcNAcと呼ばれる糖を有する。この糖の修飾はリン酸化と同様にダイナミックで,あらゆる真核生物に存在する。このO-GlcNAcは翻訳後修飾によるタンパク質の機能制御機構の1つであり,シグナル伝達の重要な調節因子である。多くのタンパク質ではO-GlcNAcの修飾部位がリン酸化の部位と一致するか,またはその近傍に存在することがわかっており,このことからO-GlcNAcの機能の1つはリン酸化を抑制することであると考えられている。O-GlcNAc修飾タンパク質の種類は多岐にわたり,シグナル伝達を介して基本的な細胞活動に関与し,また糖尿病などの疾病の発症に重要な役割を担っている。本稿では重要な翻訳後修飾の1つとして,O-GlcNAcがシグナル伝達においてどのような役割を担っているかについて糖尿病を例に挙げて概説する。

3) Notch シグナル伝達系におけるO-フコシル化の機能 (石川裕之笹村剛司鮎川友紀松野健治)

Notch受容体を介するシグナル伝達系(Notchシグナル伝達系)は,細胞間の直接的接触による多彩な細胞運命の決定に機能している。近年, Notch受容体の糖鎖修飾が,Notchシグナル伝達に不可欠であることが明らかにされた。Notch受容体のO-フコシル化は,Notch受容体とリガンドの結合に必須であり,このO-フコースに伸長付加されるGlcNAcによってリガンドの結合の選択性が調節されている。これら糖鎖修飾のNotchシグナル伝達における機能は,ショウジョウバエとマウスで保存されている。
4)

グリコシナプスとグリコシグナルドメイン -スフィンゴ糖脂質マイクロドメインを介した情報伝達と細胞機能発現機構- (岩渕和久)

スフィンゴ糖脂質は細胞膜上でマイクロドメインと呼ばれるクラスターを形成している。マイクロドメインには様々な細胞内情報伝達分子が含まれており,接着分子や受容体と超分子複合体とも呼ばれる分子集合体を形成する。このような分子集合体の中でも,細胞膜上で糖鎖が介した cis および trans の相互作用をすることで形成される複合体をグリコシナプスと呼ぶことが提唱されている。その中にあって,スフィンゴ糖脂質がSrcファミリーチロシンキナーゼとマイクロドメインを形成し,リガンドとスフィンゴ糖脂質が糖鎖-糖鎖相互作用で結合することで細胞内へと情報を伝え,細胞機能を発現するグリコシナプスをグリコシグナルドメインと呼ぶ。

5) グリコシナプスにおけるスフィンゴ糖脂質の制御的機能 (古川鋼一)

糖脂質はセラミドに糖鎖が結合した両親媒性のユニークな物質であり,脂質ラフトなど細胞膜マイクロドメインにおけるシグナル制御機能が注目されている。それに関わる研究の到達点と課題について概説した。ガングリオシドGD3は細胞増殖にポジティブに作用することが多いが,遺伝子を導入する細胞種により結果は異なっている。一方,GM1の過剰発現はシグナルの抑制に働くことが多いが,シグナル関連分子の本来の局在やGM1との親和性によって,その影響は大きく異なっている。糖脂質の糖鎖遺伝子ノックアウトマウスが示した神経系異常とマイクロドメインの変異を体系化することが課題となっている。
6) 増殖因子受容体のN型糖鎖の機能 (高橋素子横江俊一谷口直之)

増殖因子受容体は細胞膜において細胞の外の情報を細胞質へと伝える役割を果たしており,その異常は癌,動脈硬化,糖尿病,その他の多くの病態に関わっている。受容体分子は細胞外ドメインに糖鎖をもつものが多いが,EGFR,TrkA,インスリンレセプターなどはその糖鎖によって機能の制御を受けていることが明らかになった。そのメカニズムとしては,受容体の膜への輸送,リガンドと受容体との結合,受容体の二量体形成,受容体のエンドサイトーシスが影響されることが考えられる。また,細胞膜の糖脂質による受容体の機能の制御も報告されている。
5.糖鎖と発生
1) 精子形成,ミエリン形成に必要な糖鎖機能 (本家孝一)

不思議なことに,生物にとって最も原始的な生殖系と最も洗練された脳神経系に同じ分子が使われることがある。著者らが作製した糖脂質硫酸転移酵素のノックアウトマウスは,精子形成とミエリン形成に重篤な障害をきたした。この硫酸化酵素は精母細胞とオリゴデンドロサイトにおいて,それぞれセミノリピドとスルファチドを生合成する。両者は脂質部分は異なるが共通の糖鎖構造をもつ。これらの硫酸化糖脂質が細胞表面に発現して分化シグナルの伝達に関与する可能性が高い。
2) HNK-1糖鎖 (岡 昌吾田川秀樹川嵜敏祐)

HNK-1糖鎖は糖鎖末端に硫酸化グルクロン酸が結合した独特な構造をもち,発生の初期段階から特徴的な発現様式を示し,特に神経回路形成期に発現量が最大となる。ニワトリ胚においては原腸胚の形成や神経堤細胞の移動にHNK-1糖鎖が関与することが報告されている。われわれはHNK-1糖鎖の機能解明を目的としてHNK-1糖鎖生合成の生合成律速酵素であるグルクロン酸転移酵素遺伝子欠損マウスを作製し,解析を行った。その結果,HNK-1糖鎖が神経可塑性や記憶学習に重要な機能糖鎖であることが明らかとなった。
3) コンドロイチンと線虫初期胚細胞質分裂 -コンドロイチン鎖の生合成機構の解析- (泉川友美北川裕之菅原一幸)

コンドロイチン硫酸(CS)は,直鎖状の硫酸化糖鎖で,コアとなるタンパク質に結合し細胞表面や細胞外マトリクスに存在する。最近,ヒトのCSの合成に関与する糖転移酵素の遺伝子クローニングを突破口にCSの機能解析が急速に進展しつつある。特にモデル生物である線虫においてコンドロイチンの生合成機構,さらには機能が明らかになりはじめた。本稿ではコンドロイチンが細胞質分裂,器官形成および細胞の移動に関与しているという新たな知見について紹介する。
4) ポリシアル酸 (佐藤ちひろ、北島 健)

ポリシアル酸は神経侵襲性細菌の莢膜多糖として存在するほか,哺乳類では主に脳神経組織の神経細胞接着分子(NCAM)に存在する。NCAM上のポリシアル酸は,そのかさ高く負電荷に富む性質から反接着作用を示し,胎児期の神経形成や成体における学習,記憶,体内時計の維持に関与する。また,ポリシアル酸は種々の癌細胞で再発現する癌胎児性抗原であり,反接着作用を通じて癌の転移能に関与すると考えられている。最近,神経以外においてヒトミルクCD36上にポリシアル酸が発見され,その新たな機能が注目されている。
5) 糖ヌクレオチド輸送体と発生 (石田信宏)

糖鎖は接着因子や受容体として,また修飾糖鎖として受容体感受性を変え,シグナル制御に関与している。この糖鎖の付加・伸長には糖ヌクレオチドが糖供与体として利用される。細胞質で合成される糖ヌクレオチドを糖鎖合成の場に運び込んでいるのが糖ヌクレオチド輸送体である。この輸送体は膜介在性タンパク質で,ヒトでは23分子種以上の輸送体の存在が推定される。また,solute carrier 35(SLC35)ファミリー と命名され,SLC35AからSLC35Fまでの6サブファミリーに分けられている。本稿ではモデル動物の器官形成,個体発生に関与している糖ヌクレオチド輸送体SQV-7, frcと,それらに対応するヒト糖ヌクレオチド輸送体hUGTrel7とhUGTrel8,HFRC1について述べる。
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