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糖鎖と病気
編集: 谷口直之(大阪大学大学院医学系研究科生化学・分子生物学講座教授)

本書籍をご購入の場合は ……………… 1冊 本体 5,000円+税

要 旨
(第1章 1.〜3.)

総論 (谷口直之)

要旨なし
第1章 基礎編
1.糖鎖と病気の発症
1) シアリダーゼと糖尿病 (鈴木 進檜尾好徳佐々木明徳秦 敬子宮城妙子)

2型糖尿病の成因にはインスリン抵抗性とインスリン分泌障害が関与する。また,インスリン抵抗性は,耐糖能障害(2型糖尿病,境界型糖尿病),高脂血症,高血圧症などが共存して動脈硬化の発症につながる病態,メタボリック症候群の中核となる病態として注目されている。これまで,インスリンシグナリングの制御にシアル酸含有糖脂質であるガングリオシドが関与することがわかってきた。著者らはガングリオシドからシアル酸を除去する代謝酵素シアリダーゼNEU3遺伝子導入トランスジェニックマウスを作製した。同マウスの解析により,ガングリオシド代謝異常がインスリン抵抗性や2型糖尿病の発症に密接に関わっていることが明確になってきた。本稿では,そのインスリン抵抗性の病態や機序について解説し,さらに2型糖尿病患者の遺伝子解析の結果,明らかになった新しい知見に関して紹介する。
2)

インスリン抵抗性と2型糖尿病 -ガングリオシドGM3 (井ノ口仁一)

脂肪組織から分泌されるアディポサイトカインTNFαはインスリン抵抗性を誘導するが,TNFαによるインスリン抵抗性の発症機序に関しては不明な点が残されている。われわれは,TNFα刺激で脂肪細胞のガングリオシドGM3合成酵素遺伝子発現レベルが上昇し,増加したガングリオシドGM3は細胞膜マイクロドメイン(ラフト)を介したインスリンシグナルを抑制することを見出したことから,「2型糖尿病などの生活習慣病の病態はスフィンゴ糖脂質の発現異常によってマイクロドメインの構成,構造および機能が変化し,シグナル伝達が異常になったマイクロドメイン病である」という新しい病態概念を提唱している。

3) 福山型筋ジストロフィー:フクチン (戸田達史)

今まで発見されてきた筋ジストロフィーの原因は筋細胞の構造タンパク質の異常によるものであったが,近年,構造タンパク質の翻訳後の糖鎖修飾の異常が原因であるという新たな発症メカニズムを示唆する筋ジストロフィーの研究が相次いで報告された。福山型先天性筋ジストロフィーは糖鎖との関わりが示唆された最初の筋ジストロフィーであり,原因遺伝子産物フクチンの欠損によりαジストログリカンの糖鎖修飾が乱れ,リガンドとの結合ができなくなり,脳の異常を伴う筋ジストロフィーが発症していると考えられている。
4) 筋ジストロフィー:Muscle-eye-brain病とWalker-Warburg症候群 (遠藤玉夫)

複合糖質の糖鎖が,様々な生命現象(発生,分化,炎症,免疫,感染症,癌,細胞接着,老化など)において重要な役割を果たしていることがわかってきた。従って,糖鎖の欠損あるいは構造異常が生じると様々な病態が生じることは想像に難くない。本稿では,哺乳類において非常に珍しいタンパク質の修飾であるO-マンノース(O-Man)型糖鎖の構造,およびその合成に関わる酵素の同定,さらにその異常と筋ジストロフィーとの関連を紹介する。O-Man型糖鎖生合成に関わる糖転移酵素POMTとPOMGnT1が明らかになったことで,O-Man型糖鎖の脳や筋肉における発生制御や機能維持における重要性がわかった。
5) 肺気腫 (顧 建国谷口直之)

肺気腫,喘息,慢性気管支炎の総称である慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease : COPD)は可逆性の少ない持続性気流制限を特徴とする疾患である。COPDを惹起する主たる原因は長期の喫煙であるが,その他に化学物質,大気汚染などの吸入原因物質となる外的環境因子や,タンパク質分解酵素阻害物質の欠損(α1-アンチトリプシン欠損症)および肺の形成不全などの内的因子に関係する。肺気腫になるのは重喫煙者のわずか10%ないし20%に過ぎない。こうした感受性の高い人達は,一般に家族的に集中傾向がみられることから,喫煙誘導型の肺気腫にかかりやすい体質を与える遺伝子の存在が示唆される。現在,喫煙感受性因子に関して種々の解析が行われている。
6) IgA腎症と糖鎖不全IgA (西江敏和浅野雅秀)

IgA腎症は慢性糸球体腎炎の中で最も患者数の多い疾患である。一般的に予後不良であり,多くのIgA腎症患者が人工透析の導入に至る。これまで免疫複合体病の一種ではないかと考えられてきた本症において,近年,IgA腎症患者の血中IgAが糖鎖不全であることが示された。さらに,われわれは糖転移酵素β-1,4-galactosyltransferase-IのKOマウスがIgA腎症の確定診断を満たす新しい疾患モデルであることを明らかにした。糖鎖不全IgAによりIgA腎症が発症するという仮説の証明に結びつくことが期待される。
7) 泌尿器疾患の発症と糖鎖 (大山 力斎藤誠一)

泌尿器疾患の中で泌尿器悪性腫瘍(前立腺癌,膀胱癌,精巣腫瘍,腎癌),尿路感染症,および男性不妊症の発症における糖鎖発現の意義について述べる。糖転移酵素やトランスポーターなどの遺伝子多型の検討によって,疾病の発症機序において糖鎖が果たす新たな役割が明らかにされる可能性がある。尿路感染症においては,細菌と尿路上皮に発現している糖鎖の接着が疾患の発症に大きな役割を果たしている。さらに,糖鎖は精子形成においても重要な役割をもっている。泌尿器科領域の疾患においても糖鎖の発現に関する研究の中から新しい診断法や治療法の開発が期待される。
8) GPIアンカー (植田康敬木下タロウ)

GPIアンカー(glycosylphosphatidylinositol anchor)は真核生物に広く存在する糖脂質であり,細胞表面に発現されるタンパク質の修飾に用いられる。発作性夜間血色素尿症(PNH)はGPIアンカー生合成遺伝子の体細胞変異によって発症する後天性の血液疾患であり,病因の分子生物学的理解は進んでいるものの,その発症メカニズムについてはいまだに明らかにされていない点が多い。現在考えられている2つの仮説(免疫による選択説および良性腫瘍説)について最近の知見を交えて考察する。
9) 活性酸素種による糖鎖の切断 (鈴木敬一郎江口裕伸大河原知水)

活性酸素種がタンパク質のペプチド結合やDNAだけでなく,糖鎖も切断することを明らかにした。そのメカニズムとして,銅イオンを介したフェントン反応が関与していた。また,病態との関わりでは,新規タンパク質合成阻害下において活性酸素処理後に血管内皮細胞接着が亢進した。そのメカニズムとして,細胞表面糖鎖構造(glycocalyx)の切断・修飾による接着分子の移動や露出による可能性が示唆された。他にも関節リウマチ,エリスロポエチンやLDLの糖鎖の切断など様々な病態への関与の解明が今後期待される。
2.糖鎖と癌
1)

ミッドカインによる糖鎖識別と癌 (村松 喬)

ミッドカインは成長因子あるいはサイトカインに属するタンパク質で,細胞の増殖,生存,移動などを促進する。ミッドカインの発現は多くのヒト癌で亢進し,その進展に寄与している。ミッドカインは腫瘍マーカー,そして癌治療の分子標的として注目される。ミッドカイン受容体の成分としてプロテオグリカンがあり,ミッドカインはコンドロイチン硫酸Eユニットあるいはヘパラン硫酸トリ硫酸ユニットがクラスター化した構造に強く結合する。ミッドカインに着目した癌の診断・治療を立案する時,ミッドカインによる糖鎖識別はいくつかの重要な示唆を与える。

2) 上皮性癌細胞の産生するムチンの特性と機能 (中田 博)

上皮性癌細胞が産生するムチンは癌組織や血液中に見出され,その糖鎖に発現する癌関連糖鎖抗原は腫瘍マーカーとして用いられてきた。一般的に腫瘍マーカーの存在量と5年生存率には逆の相関性があるとされてきたが,その分子的背景は明らかにされていない。最近,われわれはムチンが単球/マクロファージ上のスカベンジャーレセプターを介してシクロオキシゲナーゼ-2を誘導し,プロスタグランジンE2(PGE2)の産生を亢進することを見出した。癌組織の微小環境において過剰のPGE2は癌細胞の増殖・進展に有利な環境をもたらす。
3) 糖鎖と癌の浸潤・転移 (三善英知谷口直之)

癌の転移と糖鎖の関係は,古くから注目されている。細胞の顔とも呼ばれる糖鎖が癌細胞の形質転換に伴い変化することはよく知られてきたが,近年の分子生物学の進歩により,特定の糖鎖構造,糖鎖遺伝子は癌の転移を直接制御することがわかってきた。なかでもN-アセチルグルコサミン転移酵素V(GnT-V)は癌の転移に最も関係が深い糖転移酵素として知られている。本稿では,複雑な糖鎖による癌の浸潤・転移機構に関してGnT-Vを中心に概説する。
4) 癌の接着と糖鎖 (神奈木玲児宮崎敬子井澤峯子木村尚子小池哲史)

癌化に伴い細胞表層の糖鎖は大きく変化する。癌細胞ではセレクチンのリガンドであるシアリルルイスxやシアリルルイスa糖鎖の発現が著しく亢進している。これらの糖鎖は細胞接着分子との相互作用を通じて癌の血行性転移や腫瘍血管形成を媒介する。正常上皮細胞ではこれらより複雑で多様な機能性糖鎖が発現しており,免疫系細胞のもつSiglecファミリー分子などとの相互作用を通じて粘膜のホメオスタシスを保っている。細胞癌化の早期にDNAメチル化やヒストンの脱アセチル化などのエピジェネティックな変化が起こり,一部の糖鎖の合成遺伝子の発現が抑制されて糖鎖合成が不全となり,このため癌細胞でシアリルルイスa/x糖鎖の発現が亢進する。癌の進行期には遺伝子変異の蓄積によって悪性度の高い癌細胞が選択的に増殖する。これに伴って亢進した転写因子hypoxia inducible factorの作用によって一連の糖鎖合成遺伝子が誘導され,シアリルルイスa/x糖鎖の発現が悪性度の高い癌細胞でさらに亢進する。
5) 肝癌におけるフコシル化糖鎖の分子調節機構について -現状とこれから- (野田勝久三善英知谷口直之)

原発性肝細胞癌(以下,肝癌)の代表的な腫瘍マーカーであるヒトAFP(alpha fetoprotein)は癌胎児性糖タンパク質の1つであり,アスパラギン結合型フコースによる糖鎖修飾のpotential siteを1ヵ所有する。同部位にフコースによる糖鎖修飾を受けた,いわゆるフコシル化AFP(L3分画)は新しい肝癌の腫瘍マーカーとして臨床応用されているが,この糖鎖修飾に関わる制御機構の詳細は不明である。われわれは固有のフコース糖転移酵素の発現上昇に加えて,フコシル化の共通ドナー基質であるGDP-L-fucoseの合成レベルが上昇することも,肝癌でみられるフコース含有糖鎖の増加に関与していることを見出した。さらに,肝癌におけるGDP-L-fucose量の増加やGDP-L-fucose合成酵素FXの発現上昇は新しい肝癌のバイオマーカーとしての有用性が示唆された。フコース含有糖鎖は,これまで種々の糖タンパク・糖脂質の機能を調節したり,それ自体が生体リガンドとして重要なことが報告されてきた。こうしたことから,フコシル化制御機構の研究は新規癌診断や治療薬の発見に発展する可能性が高く,今後さらなる研究の進捗が期待される。
3.糖鎖の細胞生物学
1) エンドサイトーシス (田口友彦)

エンドサイトーシスとは,細胞膜の陥入により生じる小胞を介して細胞が外環境から種々の分子を取り込む機構である。近年の細胞生物学における実験技術の飛躍的な進歩により,エンドサイトーシスを制御する分子機構が次々と明らかになってきている。本稿では主に動物細胞において確定しているエンドサイトーシスの経路ならびに,それぞれの経路を支配している分子機構について解説する。また,LDL(低比重リポタンパク)の取り込みに異常をきたすことによって起こる高コレステロール血症を例に,エンドサイトーシスと病気についての関係を論じたい。
2) 糖鎖を介した糖タンパク質の品質管理とシャペロン分子機構 (井原義人)

糖タンパク質の多くに共通する品質管理機構が小胞体には存在する。N-グリカンの場合,モノグルコシル化糖鎖や高マンノース型糖鎖などの特定の糖鎖構造が,その品質管理の分子機構において重要な役割を果たすことが明らかとなった。この品質管理機構では,糖タンパク質の修復再生に関わるcalnexin/calreticulinサイクルと分解に関わる小胞体関連タンパク質分解(ERAD)が重要な役割を担っている。糖鎖が関わるタンパク質の品質管理機構の解明は,遺伝性代謝疾患,神経変性疾患,ウイルス疾患など様々な疾患病態機構の理解に貢献するものと期待される。
3) 細胞質における遊離糖鎖の生成、代謝とその生理機能 (鈴木 匡)

哺乳動物において小胞体関連分解(ERAD)の過程で小胞体内腔から細胞質に逆輸送された高次構造不全糖タンパク質は,ユビキチンリガーゼであるSCFFbs複合体によってN型糖鎖に特異的に認識され,ポリユビキチン化を受ける。N型糖鎖はその後プロテアソームによる分解の前に糖鎖脱離酵素であるペプチド:N-グリカナーゼ(PNGase)によって糖鎖の脱離を受ける。遊離された糖鎖は,①エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼまたはキトビアーゼによる還元末端のGlcNAcの除去,②細胞質α-マンノシダーゼによるマンノースの刈り込みを経て,リソソームに取り込まれることがわかってきている。最近,本代謝経路の阻害は細胞の増殖や形態に影響を与えることが示唆されている。
4) グリコサミノグリカンの硫酸化と疾患 (羽渕脩躬羽渕弘子木全弘治)

プロテオグリカンに結合しているグリコサミノグリカンは二糖繰り返し単位の糖残基の種類,硫酸基の位置と数により,高度な構造多様性を示す。構造多様性を生み出すうえで主要な役割を果たしているのが高い特異性をもつ硫酸転移酵素である。硫酸転移酵素は糖残基の位置に高い選択性を示すだけでなく,標的糖残基に隣接する糖鎖の配列を認識することがわかってきた。硫酸転移酵素の働きで合成される硫酸化グリコサミノグリカンは正常な機能維持に必須であり,その異常は結合組織だけでなく免疫系,神経系の疾患の原因となりうる。
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