創薬・薬学研究分野
ゲノム・タンパク医科学研究分野
再生医学・医療研究分野
遺伝子医学・医療研究分野
臨床医学・臨床薬学研究分野
新刊書籍
刊行予定の書籍
学会・セミナーでの販売
広告募集 遺伝子医学MOOK
取扱書店
学会セミナーのご案内
会社案内
お問い合わせご意見・問合わせ
遺伝子医学MooK 遺伝子医学MooK別冊 遺伝子医学 遺伝子医学増刊 その他の書籍 Bio Medical Quick Review Net

トランスレーショナルリサーチを支援する
再生医療へのブレイクスルー
-その革新技術と今後の方向性-
編集: 田畑泰彦京都大学再生医科学研究所生体材料学分野教授

* 本書籍は、残り僅か・表紙等に少々難ありです。
本書籍をご購入の場合は ……………… 1冊 本体 5,000円+税

要 旨
(第1章)

第1章 生物医学研究
1.細胞
1) 多能性幹細胞とゲノム再プログラム化 -再生医療応用を目指して- (多田 高)

再生治療用の移植分化細胞を生み出す幹細胞として,胚性幹細胞(embryonic stem cell : ES細胞)や成体幹細胞の研究が目覚しい進展をみせている。それぞれの幹細胞の長所・短所が解明されるにつれ,個人の体細胞から未分化細胞を生み出す技術開発の必要性がクローズアップされている。ゲノム再プログラム化によるこの現象は,核のエピジェネティクスの書き換えにより,遺伝子発現が体細胞型から未分化細胞型へ変換することによる。再プログラム化は,体細胞核の未受精卵への核移植またはES細胞と体細胞の細胞融合によってもたらされるが,その分子機構は不明である。再プログラム化の現状と医療応用への可能性について紹介する。
2)

成体幹細胞からの再生 -細胞の可塑性と細胞融合- (金井恵理)

再生医療とは,幹細胞を使って人為的に組織再生をはかり,損傷組織を補填する医療である。成体幹細胞は元来,個体の細胞数を維持するために存在し,ある固有の細胞系列のみに分化すると考えられてきた。しかし近年,骨髄細胞や神経幹細胞など,成体幹細胞も環境次第で他の系列の細胞に分化することが示されてきた。そのメカニズムとして,幹細胞自身の多分化能,分化細胞が別の形質に変化する分化転換やいったん脱分化の後に別の細胞に再分化するという細胞の可塑性,幹細胞と分化細胞との融合,などの可能性が考えられている。

3) 細胞周期と細胞の不死化 (清野 透)

ヒト組織幹細胞を体外で自由に殖やすことができれば,細胞移植療法の可能性は大きく広がる。しかし,実際にヒト細胞を培養すると一定期間分裂した後,分裂を停止し無限に増殖することはできない。この培養皿上での分裂可能回数を規定している機構には,テロメア依存性のものとテロメア非依存性の2つがある。テロメア依存性のものはテロメア短小化によりDNA損傷チェックポイントと類似の機構が働き増殖が停止するもので,分裂寿命または狭義の細胞老化(replicative senescence)と呼ばれる。しかし,皮膚線維芽細胞を除くほとんどの正常ヒト細胞の培養皿上での分裂可能回数を規定しているのはテロメア短小化ではなく,p16INK4a/RB経路の活性化による増殖停止である。従って,ほとんどのヒト正常細胞を不死化するには,テロメラーゼの活性化に加えp16INK4a/RB経路の活性化を止める必要がある。ここでは遺伝子導入による細胞寿命延長法の現状と課題を概説し,今後のヒト細胞の寿命延長法の展望についても述べる。
2.水溶性シグナル分子
1)

細胞増殖因子と分化誘導因子の産業化 (土方重樹)

1960〜70年代にかけて相次いで発見された細胞増殖因子,分化誘導因子は,80年代にはいり遺伝子工学の発達とともに大量生産が可能になり,産業化されはじめた。現在までにbFGFをはじめ,PDGF,EGFといった細胞増殖因子が皮膚潰瘍治療薬として世界各国で発売されている。bFGFは骨折,歯周病,血管新生療法への応用のための臨床試験が進められており,PDGFについても歯周病への応用が期待される。また,骨形成促進を目的としてBMP-2,OP-1も上市を果たしている。全身投与毒性や腫瘍細胞増殖促進といった問題点もあり,上記以外の因子については産業化されていないが,今後も細胞や足場材料とともに再生医療の一翼を担うことが期待される。

2) 骨の形成と転写制御 (野田政樹・近藤久貴・臼井通彦・井上敬一・中島和久)

骨の形成は未分化間葉系の細胞が分化し,膜性骨化の過程と内軟骨性骨化により進行することが知られている。間葉系の幹細胞から骨芽細胞へ分化させる機構においては段階的に転写因子が働くと推測される。また,骨髄の間葉系の細胞を長期に培養すると,培養の条件によって骨が軟骨細胞,脂肪細胞,筋肉細胞などの間葉系由来の細胞系譜をたどる。この間葉系の細胞の分化には振り分けに際して,これを直接的に制御する転写因子群が存在している。本稿では骨芽細胞の分化を担う転写因子について概観する。
3) 細胞死抑制強化タンパク質の細胞内への直接導入による細胞死の抑制 (太田成男・麻生定光)

細胞移植時に生じる急激な変化による細胞死を抑制することによって効率よく組織を再生できることが期待される。筆者らは,アポトーシス抑制活性強化タンパク質FNKを遺伝子操作によって作製した。さらに,タンパク質導入ペプチド(PTD)を結合させたPTD-FNKを用いることで,細胞外からFNKを細胞内に導入することも可能にした。さらに,腹腔や静脈に投与することでもFNKの到達した組織を細胞死から防御することも可能になった。分化能のある幹細胞をPTD-FNKで処理することによって,再生効率を上げようとしている。
4) サイトカイン,ケモカイン (長澤丘司)

生体の発生・再生の制御には,発生・再生の場である臓器の微小環境から産生されるサイトカインが中心的な役割を果たすと考えられている。サイトカインの制御機構を利用した再生医療の実現のためには,サイトカインによる生体の発生・再生の制御機構を解明し,これを医療応用するための化合物や材料を開発することが重要である。本稿では,再生医療の基盤としてのサイトカインの基礎研究の一例として,ケモカインCXCL12とその受容体CXCR4に関する研究を取り上げた。ケモカインは,細胞遊走誘導活性が強いサイトカインのファミリーで,CXCL12は,発生現象への重要性が明らかとなった最初のメンバーである。最近,CXCL12が造血系や生殖細胞系の幹細胞の臓器へのホーミングに重要な役割を果たしていることが明らかになり,この分子の機能制御が将来の幹細胞移植など再生医療へ応用されることが期待される。
5) サーカディアンリズムと時間遺伝子 -硬組織代謝を中心として- (篠田 壽)

サーカディアンリズム(概日リズム)は,生体の様々な生理過程に普遍的に観察できる。哺乳類動物においては,このリズムをつかさどる時計機構の中枢は視交叉上核にあり,視交叉上核の破壊は,サーカディアンリズムの消失を引き起こす。サーカディアンリズムは時計遺伝子群が関わる転写のネガティブフィードバック機構によって生み出され,その振動はいまだ未知の機構により,行動やホルモン分泌,各組織に固有な細胞機能のサーカディアンリズムを発現させる。一方,生体の生理的基盤が時間の関数として24時間周期で変動していることを考えたとき,薬効の発現やドラッグデリバリーなどにも日内変動が生じることが考えられ,さらに臨床検査値や実験値の解釈にも常に時間を意識することが必要となる。本稿では,硬組織の代謝を中心としながら,このサーカディアンリズムの発現機構や性質について考察する。
3.水不溶性シグナル分子
1) 接着基質としての細胞外マトリクスの構造と組織再生への応用 (安達栄治郎・大橋しほ花・平井和弥・竹村幸敏)

細胞外マトリクスは細胞外骨格として組織や器官を形作るだけでなく,細胞接着基質として,あるいはサイトカインのリザーバーとして,細胞や組織の機能発現を調節している。細胞外マトリクスは化学構造の違いに基づいてコラーゲン,糖タンパク質,プロテオグリカンなどに分けられる。コラーゲンは分子の状態と会合して細線維を形成した場合とではリクルートされる接着受容体が異なり,細胞の形質発現もそれに応じて変化する。
細胞外マトリクスは会合体を形成することにより,多様なシグナルを継続して細胞に伝達することができる。
2) 天然分解酵素 (小林孝志)

細胞外マトリクス成分を分解する天然分解酵素の中で,MMP(matrix metalloproteinase)群についての性状検討の研究が進み,ここ40年ほどの間に詳細に解明されてきた。分泌された酵素による代謝として,MMPsのうちコラ−ゲンを分解するコラゲナ−ゼが重要であることが報告された。その後,膜型(membrane type)-MMPsとMMPsに対する阻害因子とが関わった細胞膜表面でのプロテオリシスの機構が重要であることが解明された。今後,創傷治癒時などの病態に酵素活性をどのように制御することが適切かを明らかにし,再生医療の現場にMMPs活性制御を応用することが期待される。
3) 固定化培養基材 -造血幹/前駆細胞の体外増幅を目指して- (野川誠之・伊藤義浩)

造血幹細胞を体外で増幅する培養システムの開発が臨床面から求められている。安全性や安定供給の観点から,生きた細胞を用いない培養システムの開発を目指した。造血支持因子があると考えられる造血支持細胞表面を化学固定した後にも部分的に活性が維持されており,造血細胞増幅が可能であった。一方,既に生理活性物質をマトリクスに固定化した人工材料により,細胞の機能制御が可能であることを示しており,この技術を造血細胞の増幅に応用した。サイトカイン依存性白血病株を用いた実験から,サイトカイン固定化領域依存的な細胞増殖が観察可能であった。
4) Nicheにおける未分化性の維持 (山下 潤)

生体内に存在する種々の成体幹細胞は,特殊な周囲環境のもとで,その未分化性を維持しながら存在し続けている。この微小環境をniche(ニッチ)と呼ぶ。nicheは,幹細胞がその未分化性と多分化能を維持したまま,存在および増殖できる場所と定義されるが,長い間その実体は不明であった。近年,nicheの構造や仕組みについて,細胞レベル・分子レベルでの解明が進んできた。未分化細胞を際限なく増やすことができるnicheの再構成は,再生医学に飛躍的進歩をもたらすと考えられる。
4.免疫拒絶抑制
1) 糖転移酵素による細胞表面の抗原性の改変 (宮川周士)

ブタからヒトへの異種移植において最大の抗原は,ヒトではpseudogeneになっているα-1,3 galactosyltransferaseが作り出すα-galactosyl epitopeである。当初,ブタではノックアウトは困難とされ,他の糖転移酵素の過剰発現による拮抗阻害が試みられたが,2002年,ホモのノックアウトブタが作られた。
一方,non-Gal抗原に対しては,N型糖鎖の側鎖を減らし抗原性を下げるGnT-IIIの遺伝子導入による過剰発現が唯一有効な手段であると考えられる。
2) CD25+CD4+T細胞による移植免疫寛容の誘導 (野村尚史・坂口志文)

免疫応答を負に制御するCD25+CD4+T細胞は,CD4+T細胞の10%を占めており,アロ抗原に対する免疫寛容の成立に重要な役割を果たす。試験管内で誘導したドナー抗原特異的CD25+CD4+T細胞は,生体内でもアロ抗原特異的に移植免疫寛容を誘導する。移植片拒絶は,臓器移植医療の大きな障害である。レシピエントから,ドナーのアロ抗原に特異的なCD25+CD4+T細胞を作製し,レシピエントに自家移植すれば,免疫系の生体防御機構を温存しつつドナー抗原特異的な移植免疫寛容を誘導できる。
5. 上皮-間葉間の可塑性 (Epithelial-Mesenchymal Transition:EMT) (菅野雅人・谷口英樹)

上皮細胞と間葉細胞という,一般的にはまったく異なる細胞と考えられている細胞同士に可塑性があることは,発生学的にはepithelial mesenchymal transition(EMT)として古くから知られていた。EMTは正常の発生,特に3胚葉への分化過程において極めて重要であり,Snail familyの転写因子がE-カドヘリンの発現を抑制することが,その根本的なメカニズムであると考えられている。同様のメカニズムにより後天的にEMTが生じると,臓器の線維化や癌化といった疾患を引き起こすことが問題となる。従って,EMTの理解が進めば,線維化を本態とする各種難治性疾患や癌に対する新たな治療や,可塑性の制御による再生医療に結びつく可能性があり,今後の重要な研究課題といえる。
6. トランスジェニックラット -再生医療研究の新しい探索ツール- (袴田陽二・小林英司)

再生医学研究には,幹細胞分化,増殖,遊走などをin vivoで追跡するために各種実験動物モデルが利用されている。これまで移入細胞とレシピエント細胞を区別するために細胞マーカー遺伝子を導入したトランスジェニック(Tg)マウスが広く利用されてきた。マウスはノックアウト技術が利用でき,遺伝子の機能解析系としては極めて有用なツールである。しかし,体サイズが小さく,whole bodyを用いた長期の実験には不向きである。また,ブタやサルなどの中型動物は,ヒトへの臨床を想定した研究として重要であるが,長期観察やTg技術の確立に難がある。これらの難点を克服する探索モデルとしてTgラットは両者の特性を補う極めて重要な動物である。本稿では,再生医療研究の新しいツールとしてTgラットの有用性を紹介する。
7. プロテオミクスと質量分析 (高尾敏文・里美佳典・須藤浩三)

1980年代に入り,質量分析法はタンパク質の同定や翻訳後修飾の解析に威力を発揮し,現在ではプロテオミクス研究を支える基盤技術となった。さらに,最近では,質量分析計を駆使して癌などの疾患マーカーを,タンパク質や糖鎖などをターゲットにして探索する研究も盛んになってきている。ここでは,プロテオミクスに有用な最新の質量分析法を概説し,複雑な混合物である生体試料の一例として,様々な病態を反映すると期待されているヒト尿中の分子量1万以下のタンパク質のプロファイリングについて紹介する。
第2章、第3章へ 第2章、第3章へ
目次に戻る

(c) 2000 Medical Do, Co., Ltd.