監修によせて

 科学の大きなブレークスルーは,それが大きいほど多くの疑問と課題を提案する。最近の免疫チェックポイントを中心としたがん免疫療法の大きな成功が,まさにそれに当たる。免疫チェックポイント阻害剤の明確な臨床効果は,言うまでもなくがん免疫療法のみならずがん治療にとっても大きなブレークスルーになった。長年様々な角度から続けられてきた開発努力の方向の正しさを力強く立証するものとなった。また,科学的視点からの大きな展開は,長年仮説として提案されてきた「宿主のがんに対する免疫監視機構」の存在を疑いようもなく明らかにしたことである。様々ながん種における免疫チェックポイント抗体の有効な患者さんの存在は,これまでのマウスを中心とした実験系での探索と検証のみならず,今後ヒトにおける免疫監視機構のより詳細なメカニズムの解析を提供しはじめている。
 本特集ではがん免疫研究と,がん免疫療法開発にとってかつてないエキサイティングな時代の中,“What’s now?”を幅広く据えるとともに,“What’s next?”を様々な角度からの視点で考えることを目論んでいる。がん免疫研究分野での第一線の研究者の方々により,幅広い課題と今後の取り組みにつき述べていただいている。
 このような特集の常として,できるだけ網羅的に分野全体をカバーし,読者の方のお役に立てることを目論むとともに,多くの読者の方々に次々と浮かんでくる課題につき,新しい取り組みを含めて述べていただいた。この特集が,今後更なる活性化が期待されるがん免疫研究の広がりと深み,そして更なる斬新ながん免疫療法の開発とその現実性を理解していただくためにお役に立てば幸いである。

三重大学大学院医学系研究科遺伝子・免疫細胞治療学 教授  
珠玖 洋