序文
  

 
遺伝子医学MOOKで「RNAと創薬」を出版したのが2006年。それから3年たって本特集を出版することとなった。監修した立場としては,前回の特集は役立つ特集だったように思う。それは,RNA研究の重要性が広く認識された時期であり,基礎的な学術研究から創薬研究まで広い視野でまとめた「一冊」となったからである。同時期に,これに類する出版はなかった。これまでにRNAに関する特集が多数出版されるようになったが,基礎研究と臨床や創薬などの応用研究とを広範に取りまとめた出版はそれほど多くはない。今回も,その視点を意識して,役立つ一冊となるように期待している。
 RNA干渉に代表されるように,RNAの基礎研究が爆発的に進展している。それに呼応して,RNAを医療や創薬に応用する実用化研究も急速に進んでいる。その結果,RNAに関する学術集会や出版が数多く企画され熱心に議論されている。しかし,その多くは学術研究寄り,あるいは実用化研究寄りで,両者を融合したような広い議論の場がそれほど多くはないように感じている。しかし,RNAというマテリアルを軸とするRNA研究は,基礎研究と実用(応用)研究が車の両輪として駆動できる稀な幸運な研究なのだから,その利点を生かして,基礎と応用,あるいはアカデミアとインダストリーというような「垣根」を越えた連携をますます育んでいくことが大切である。
 本特集は,その思いを抱きながら企画した。「最新RNAと疾患研究」では,前回2006年から大きく飛躍したRNAに関する基礎と臨床から医薬開発に至るRNAのすべてを可能なかぎり網羅した。基礎研究と応用研究の隔たりを越えて,大きなRNA研究の飛躍を期待したい。
 本特集「最新RNAと疾患研究」は,RNA研究の第一線で活躍する諸先生に執筆をお願いした。各位にはご多忙のなか無理をお聞きとどけいただき,執筆にご尽力いただいた。ここに,深くお礼申し上げる次第である。本書が,広い読者の啓蒙と若い学徒や研究者の勉学・研究・開発に役立つことを切に願う。
 追記:この序文執筆の2週間後に2009年度のノーベル化学賞が「リボソームの構造と機能の研究」に関する業績によって,Venki Ramakrishnan,Tom Steitz,Ada Yonathの3名のX線結晶構造学者に対して授与された。RNAの世紀を象徴する快挙が続く(2009年10月)。
 
東京大学医科学研究所 教授 中村 義一