新生児マススクリーニングの新たな展開

中村公俊
熊本大学大学院生命科学研究部小児科学講座

 新生児マススクリーニングは,約60年前に米国のRobert Guthrie博士がガスリー法を用いてフェニルケトン尿症を早期に診断する方法を開発したことに始まり,先天代謝異常症や内分泌疾患などを対象として多くの国や地域で実施されている。わが国では,1977年から公費によるスクリーニング検査が行われている。このスクリーニングは小児の希少難病の早期診断と治療を目的として,新生児の全員を対象とし,疾患を見逃すことなく精密検査につなぐことが重要とされてきた。さらにタンデムマス検査が導入されるようになり,頻度がとても少ない,患者の一部しか見つけることができない,スクリーニング結果がわかる前に発症してしまう場合があるなどの疾患も,その対象として含まれるようになった。さらに拡大スクリーニングとして,ライソゾーム病,ムコ多糖症,原発性免疫不全症や脊髄性筋萎縮症なども対象と考えられるようになってきた。
 この特集では,まず福士勝先生,笹井英雄先生に,ガスリー法,タンデムマス法などのマススクリーニングの検査法と,確定診断として用いられるようになっている遺伝子解析について詳しく述べていただいた。指定難病の確定診断に必要な遺伝子解析の一部は保険適応となっており,そのエビデンスも含めて理解することが重要と考えられる。現在実施されているスクリーニングの各論として,濱崎考史先生,松本志郎先生,但馬剛先生,笹井英雄先生,小林弘典先生,大澤好充先生,和田陽一先生に,アミノ酸代謝異常症,尿素サイクル異常症,有機酸代謝異常症,脂肪酸代謝異常症,ガラクトース血症について,それぞれ代表的な疾患を取り上げ,スクリーニングの実際と確定診断,治療に至るプロセスについて記載していただいた。さらに,澤田貴彰先生,小須賀基通先生,下澤伸行先生には,ファブリー病,ムコ多糖症,副腎白質ジストロフィーなどの,拡大新生児スクリーニングの対象疾患について執筆していただいた。小児の希少難病に対して,新規の治療法が次々と導入されつつあり,その治療効果を十分に得るためには早期診断と治療が重要であると考えられている。そのため,これらの疾患の遺伝カウンセリングについての理解も必須である。洪本加奈先生,森貞直哉先生,山田崇弘先生に,新生児マススクリーニングと遺伝カウンセリングについて執筆をお願いした。
 いずれも,わが国の新生児マススクリーニングにおける現状と課題を理解するために意義ある総説である。読者の方々に新生児マススクリーニングのこれまでの歴史と,普及が進みつつある拡大スクリーニング,そして遺伝カウンセリングについて理解を深めていただければ幸いである。貴重な時間を割いて執筆の労を取ってくださった先生方に深く感謝したい。