Common disease解析の最前線

徳永勝士
国立国際医療研究センター・ゲノム医科学プロジェクト

 現在,国内外で難病やがんのゲノム解析研究がエクソーム解析から大規模全ゲノム解析へシフトしている。わが国でも難病とがんの患者10万人の全ゲノム解析プロジェクトが立ち上がり,これらに先行してコントロール群3万人の全ゲノム解析プロジェクトが進行している。
 一方,多因子性のcommon diseaseの場合は,一般に効果の小さい多数の遺伝要因を検出するために可能な限り多数の患者検体を解析する必要がある。このため,主としてコスト面の問題によって大規模全ゲノム解析による研究はいまだ限られている。しかしながら,SNPを用いたゲノムワイド関連解析(GWAS)の規模の拡大やメタ解析の成果は着実に上がっており,またPRS(polygenic risk score)などの統計手法の開発にも目を見張る進展がある。common diseaseの遺伝要因の解明やその成果に基づく薬剤のリポジショニングや新たな創薬戦略,さらには個人のリスク予測につながる道筋も見えてきた。
 本特集では,特徴的な多因子疾患群についてのゲノム解析研究およびゲノム情報解析法開発研究の最前線で活躍する先生方に現状と展望を執筆していただくことができた。まず,床嶋先生,門脇先生らには最も大規模なメタGWAS解析が進んでいる2型糖尿病のゲノム解析研究の最前線を解説していただいた。高地先生には自己免疫疾患を典型例として進んでいるゲノム・多層オミックス統合研究の現在を報告していただいた。松田先生にはがんを多因子疾患として捉え,その遺伝要因探索研究の最前線を披露していただいた。垣内先生,加藤先生には,遺伝要因の同定が最も困難とされてきた疾患群の一つとして知られる精神疾患のゲノム解析研究の最前線について議論していただいた。野口先生には各種アレルギー疾患の遺伝要因の探索研究の最前線を解説していただいた。高地先生による自己免疫疾患の現状報告との対比に興味がもたれる。大前と私は多因子疾患としての感染症について,COVID-19感染症の研究最前線を中心に概説した。
 続いて,発展の著しい統計学的方法について取り上げた。岩﨑先生,岡田先生には現在最も注目されているPRS研究の最前線について解説していただいた。須藤先生,清水先生らには特にゲノムコホート研究におけるPRS開発研究の現状を報告していただいた。最後に,Gervais先生,長ア先生らにはポリジーンモデルの応用的方法について議論していただいた。
 いずれも,わが国のcommon diseaseの遺伝要因の探索研究の現状と展望を理解するために意義ある総説となった。貴重な時間を割いて執筆の労を取ってくださった先生方に深く感謝したい。本特集で取り上げることができた分野は誌面の都合で限られているが,読者の方々に現在のcommon diseaseのゲノム医学研究の潮流を感じ取っていただければ嬉しく思う。