巻頭言


加藤茂明
 
東京大学分子細胞生物学研究所核内情報研究分野 教授


  1987年に初めて核内ステロイドホルモンレセプターがcDNAクローニングされ,核内レセプターは転写制御因子であることが示された.それから早15年が経過したが,この核内レセプター研究領域は終焉に向かうどころか,今も拡大の方向に向かっている.この領域の展開は,基礎研究のみならず臨床研究から構造生物学領域なども包括しつつ,かつ創薬を初めとした産業界にも大きな発展を見せている.この拡大を支える潮流は,幾筋も存在するが,本特集では筆者個人の拙見に基づいた先端領域を紹介したい.
1.オーファンレセプターによる新展開
 オーファンレセプターはリガンド未知のレセプターとし,主としてそのcDNAの取得によりその存在が知られるようになった.このようなオーファンレセプターを含めると,ヒトゲノム上には核内レセプタースーパーファミリーに属する遺伝子は48種存在すると考えられている.最近これらオーファンレセプターリガンドが次々と同定され,まったく新しい展開を見せている.PXR/SXRは,解毒のセンサーとして,薬物/毒物代謝p450酵素遺伝子群の発現をコントロールすることが明らかになりつつある(槇島の項参照).またリガンド未知であっても,ノックアウトマウスの解析などから器官形成に必須であったり(諸橋の項参照),薬物の標的因子であることが明らかになりつつある(柳澤の項参照).しかし,やはり主役はPPARs,FXR/LXRによる脂質代謝調節作用およびそのリガンドの同定や創薬であろう(門脇,藤井の項参照).
2.核内レセプターを介した転写制御能
 核内レセプターはリガンド誘導性転写制御因子であるため,リガンド結合によりその立体構造は変化する.その構造変化に呼応し,転写共役因子が相互作用することがわかっている.転写共役因子には,転写をより活性化するコアクチベーターと転写を抑制するコリプレッサーが存在するが,いずれも単独因子でなく,複合体として機能,作用することがわかっている(北川の項参照).さらに,これら複合体はヒストンのアセチル化などの修飾を通じ,クロマチン構造を修飾することがわかりつつある.これらの核内レセプターを介した制御はリガンド依存的であるため,真核遺伝子発現制御解析系として,今後も多用されることは間違いないであろう.
3.核内レセプターと疾患および創薬
 核内レセプターの生体内高次機能については,レセプター遺伝子欠損マウスの変異から,詳細な解析が進んでおり,そのリガンドの生理作用も個体レベルで理解できるようになっている(森の項参照).このようなリガンド - 核内レセプターシステムの解明が進むにつれ,疾患との関連が明らかになりつつある(武山の項参照).さらに,これらの進展をふまえ,レセプターを標的分子とした創薬研究の展開が進んでおり,次々と合成リガンドが開発されている.特に,劇的な抗炎症作用を有するグルココルチコイドは,その副作用を軽減した新たな合成リガンドの創出が注目されている(田中の項参照).また,ホルモン依存性癌の多くは,ホルモンアンタゴニストでその増悪が抑制されるため(林の項参照),より理想的な活性を有するリガンドが検索されている.しかしながら,これらレセプターの標的遺伝子群の性状解析は不完全であり(井上の項参照),レセプターを介した情報伝達全貌解明は,まだ遠い先のようである.

Top


 株式会社 メディカルドゥ
 〒550-0004  大阪市西区靭本町1-6-6 大阪華東ビル5F  E-mail:home@medicaldo.co.jp

(C) 2000 Medical Do, Co., Ltd.