巻頭言


われわれが創造する新研究領域

金田安史

大阪大学医学系研究科未来医療開発専攻遺伝子治療学分野 教授


  遺伝子治療が1990年に始まってようやく11年が経過した.将来の有望な先端医療として期待されつつも,めざましい成果は旧世紀中には挙げ得なかった.しかし幾つかの光明とまた問題点も見えるようになり,またようやく遺伝子治療に対する正しい認識と,どのように進めるべきかという方針が世界中に芽生えてきたように感じられる.その意味ではわが国も欧米と同じスタートラインに立っている.
 遺伝子治療こそわれわれがこれからこの新世紀において創造していくべき新たな研究領域なのである.遺伝子治療研究には基礎から臨床までが有機的に結びつかねばならない,とは既に前世紀から言われ続けてきた.ここでその詳細について紹介するのは差し控えるが,トランスレーショナルリサーチという言葉がただグラントを取るために使われるのではなく,要はそれを実践していくことである.遺伝子治療が包含する研究領域はますます拡大しているし,そのように裾野を拡げることがこの領域の発展には絶対必要なのである.従来はどうも“文盲,象をなでる”という感触が,遺伝子治療研究に従事し,評価する人々にあったように思えて仕方がない.われわれはまだ遺伝子治療の氷山の一角しか見ていないような気がする.しかし全貌が見えるかどうかは,われわれの今後の取り組み方にかかっているのも明白である.謙虚にしかし着実に歩むべきである.
 この特集で取り上げさせていただいたのは,その膨大であるべき遺伝子治療研究の最近の技術展開である.しかしこれが遺伝子治療研究のすべてだとは思わないでいただきたい.ほんの氷山の一角にすぎないのですから.
 従来から私は遺伝子治療といえどもそれ単独でヒトの病気を完治させるなどということはあり得ないし,遺伝子治療はそのように扱われるべきものではないと考えてきた.そうではなくて遺伝子治療も従来の医療技術と並列されて評価されるべきであり,そうなることによってわれわれはさらに新たな医療技術を発展させることができるであろう.ここでは遺伝子治療を補助し,その効果を増強できる新技術の現況について紹介したい.執筆の先生方には遺伝子導入ベクターによる導入効率や発現効率を高めるような試み,治療遺伝子の効果を増強できる複合治療法について詳細な解説をお願いした.ご意見を賜れば幸甚である.

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